なぜコンサルティング業界でリストラが進んでいるのかを考察

皆さま、こんにちは

今回のコラムでは、なぜコンサルティング業界でリストラが進んでいるのかについて考えてみたいと思います。

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最近、総合系のコンサルティング会社であるアクセンチュアが約19,000人の従業員を削減するという事でニュースになりました。

また、戦略系の『マッキンゼー・アンド・カンパニー』でも、約1,400人の従業員削減に着手するそうです。個人的には、戦略コンサルタントを減らすというこちらのニュースの方が驚きでした。経験上、戦略のプロを育成するのには相当な時間がかかるからです。

ただ今回はその件ではなく、あくまでコンサルタントのリストラが進んでいる理由についてのみ、ここでは考察します。

1-コンサルティング業界でリストラが進んでいる理由を構造化

1.マクロ環境に基づくリストラの理由

まず、リストラの原因として一番に考えられるのが、世界的な経済の悪化でしょうか。ニュースでもこれがメインとして報じられる事が多いようです。

1-1.コロナパンデミックと戦争勃発によるインフレの兆候

特にコロナパンデミックが起きて以降は、混乱している国民生活を守るため、欧米国家を中心としてお金を(過剰と言える程)ばら撒きました。その結果、生活に必要な物資を皆が購入できるようになり、国民生活自体は守られましたが、余った資金を多くの人は投資に向けるようになりました。

また、人との接触を避けるためにテレワーク需要が増えて、テック企業を中心として売上&株価は右肩上がりで成長し、そこから多くの人々が利益&リターンを得たことで、儲かると分かった人々が次々と市場に参加し始めました。そうやって金融投資はさらに過熱していきます。(日本政府ですら国民に投資を推奨するようになりましたね)

お金がお金を生む状況から、金銭の価値は下がっていき、物価は高騰、つまりインフレの兆候が見えるようになります。

さらに、ウクライナ・ロシア間で戦争が勃発して、食料や天然資源の流通に混乱が生じました。様々な物資が供給不足となった結果、価格はさらに高騰していきます。

1-2.金融引き締めとウィズコロナをきっかけにした需要の変化、そして不況へ

そのような社会的混乱やお金余りによる過剰投資・インフレを抑制するため、金融引き締めを目的として金利が上昇します。そして、世界的なコロナパンデミックもウィズコロナへと移行しようとする中、テレワーク需要も少なくなっていきます。

そうしますと今度は、過熱気味だった経済成長に突然ブレーキがかかり始めます。それまでは右肩成長を続けていたITを中心とするテック系企業も、過剰投資や過度な人材採用の問題が顕在化し、潜在需要を先食いしていただけと多くの人が気づき始めた結果、急速に需要は萎んでいきます。

世界の工場と言われた中国でも状況は同じで、IT・デジタル系の仕事が少なくなり、それがあらゆる産業に波及して、現在は世界的な長期不況に突入しつつあります

ここまでの流れについては、(多少の解釈違いはあるかもしれませんが)皆さんご存知の事と思います。(もし間違ったことを書いておりましたら、お手数となりますが修正していただけますと助かります)

1-3.クライアント企業の財務悪化からコンサルタントのリストラは起きている

このようなグローバル経済の行き詰まりから、クライアント企業の財務状況も悪化し、その流れでクライアントを支援するコンサルタントの需要も少なくなります。そうして今まで急拡大してきたコンサルティング市場は、停滞または縮小しつつあるものと考えられます。

このようなマクロ的傾向が見られる以上、沢山の従業員を雇って規模を急拡大してきた大手のコンサルティング会社も、大規模なリストラを実行せざるを得なかったのは、ある意味仕方がなかったのかなと思います。

2.コンサルティング会社が自社コンサルタントを削減する理由

次に、コンサルティング会社の観点から、なぜコンサルタントの削減が行われているのかについて考えてみます。

私の答えを書きますと、おそらく新たなビジネスチャンスを見つけ、それを一早く掴む必要があるからです。

例えば、今ですとIT関連企業の成長性は鈍化していますが、AI分野の成長性はまだまだ高いと考えられます。したがって、大企業は限られた経営リソースをそこへ集中させていくでしょう。

それは大手のコンサルティングファームにとっても同じで、既存サービスの代替としてAIサービス開発に力を入れているのは疑いようもありません。急速に変化している世の中でうまくビジネスチャンスを掴めるよう、自社の従業員をリストラしてでも、経営体制を身軽にしておく必要があります。

なぜ新たなビジネスチャンスを早めに掴むのかと言えば、既存ビジネスのリスクが顕在化しつつあるからです。リスクには二つの可能性が考えられます。売上の減少コスト高です。

売上が減少する理由としては、コンサルティング案件の受注量が減っている、または単価が下がっている事が考えられます。

受注量が減っている要因としては、自社サービスの供給能力に問題が生じたようには見えないので、市場需要全体が停滞・縮小傾向にある事が考えられます。なぜそうなったかと言えば、コロナパンデミック後の急激な仕事の需要増(IT、DX、AI、テレワークブームなど)に対応するため、効率的なサービス提供を追求した結果、サービスをパッケージ化、つまりコモディティ化してしまったからではないでしょうか?

例えば、課題解決の手法をパッケージ化する事により、誰が担当しても仕事の再現性は高くなるので、安定したサービスをクライアントへ提供しやすくなります。ただし、デメリットとしては、ある程度決まったソリューションをクライアントへ提案するだけとなってしまうため、想定外の状況に対応しづらくなり、また、競合がノウハウをコピーしやすくなる事で、本来の売りである顧客のニーズに合わせたプレミアム感が薄れてしまいます。結果として、コンサルティングサービスの低価格化、つまりコモディティ化が進んでしまいます。

それと並行して、短期間で人材を大量採用した事により、一人一人のコンサルタントの質が従来と比べ低下してしまい、人材育成も追いつかず、高い付加価値サービスを提供しづらくなった可能性もあります。

後は、ここ十年でコンサルタントの仕事が広く認知され、加えてコロナパンデミックをきっかけにして世界規模でのブロック経済化が進行しました。これにより、限られたマーケット内でライバルが急増しただけではなく、今まで住み分けが出来ていたグローバルファームとローカルファーム間の顧客セグメントが重なり始めた事により、双方の競争が激化し、市場需要に対してコンサルティングサービス全般の供給量が過剰になってしまった事が考えられます。その結果、一社当たりの市場シェア(パイ)が縮小し、受注量減少に繋がったと考えられます。

そして、単価が下がっている理由としては、既存サービスの市場規模は現状停滞、将来は下降予測となっており、さらに人を採用し過ぎた事によって、増える見込みのない市場需要に対して人材が過剰に供給されている事が考えられます。簡単に言いますと、『人余り』になっているから、案件当たりの単価が下がっているという事です。

それと、コストが高くなる理由として考えられるのは、人件費、プロモーション費用、サービス開発コスト、そして一般管理費があります。戦争が起きたり、お金を大量にばら撒いたりしたことでインフレが生じ、そして金融引き締めを行った事で景気後退が生じました。よって、基本的には多くの費用項目が当面高騰し続ける予測となっています。今後は、人余りとなっている人件費を除けば、売上に対する各費用項目の割合は上昇していくでしょう。

ですから、国際社会の大きな変化に対応するため、コンサルティング会社がリストラを進めて身軽になろうとしているのは、客観的には自然な事と言えます。

3.近年のマッキンゼーが人を大量雇用し、リストラに着手した背景とは?

しかし、一つ違和感を覚えたのは、戦略が売りであるはずのマッキンゼー・アンド・カンパニーが短期間で人を大量雇用し、そしてリストラを敢行したことです。

自社のコンサルティングノウハウを持った人材を一気に市場へ大量放出するわけですから、中・長期的に見れば、マッキンゼーにとってプラスとならない可能性があります。ブランドイメージ的にも良くはないでしょう。

同じ戦略コンサルタントとして、そんなリスクを取るくらいなら、急激な事業成長は最初から諦めて慎重に人を雇用し、腰を据えて人材育成に取り組んだ方が、リスク管理の意味でも、そしてポジティブなブランドイメージ醸成の意味でも良い気がするのは、私の不見識ゆえでしょうか?

そこで、これまでの考察を通して、近年のマッキンゼーの行動背景には何があるのかを洞察してみます。ご参考までに、マッキンゼー・アンド・カンパニーの過去約10年間の従業員数を以下の表にまとめます。

2012年頃2018年頃2023年頃
マッキンゼー・アンド・カンパニー17,000人28,000人47,000人

この表を見ますと、従業員数が過去11年間で急拡大しているという事が分かります。2012年から2018年の6年間で11,000人増え、2018年から2023年の5年間では、19,000人増加しています。

これらを年間で考えますと、前者は約1,833人、そして後者は3,800人毎年増えている計算となるので、増加率として見るとその差は約2倍です。

なぜここ5年間で急激に事業規模が大きくなったかと言いますと、コロナパンデミックに端を発した金融緩和およびITビジネスの需要増によるものと考えられます。

その需要を逃さないため、マッキンゼーに限らず、多くの大手IT企業が設備投資や人材採用を活発化させたはずです。

もちろん、『時間がお金(Time is Money)』であることを企業は十分に理解しているため、いち早く安定した業務の運営体制を確立するために、必要なノウハウを持った大手のコンサルティングファームへサポートを依頼するのは自然の流れでしょう。

そうやって、クライアント企業(特にIT先端企業)やコンサルティングファームは、人材・設備・開発関連の投資を急速に増やしていきました。

例えばマッキンゼーですと、経営戦略・財務・会計の理論を統合させ、効率的に事業運営を行う手法をクライアントへご提供しているようです。ちなみに、事業リソースが全然違うので、サービスの規模や質は比べものにはならないのでしょうが、漸コンサルティングでは経営戦略と財務の理論を統合させた上でサービスを提供しています。

ただ、コロナパンデミックが2020年に起きて、2023年にはクライアント企業やコンサルティングファームが思い切ったリストラを敢行している事を考えますと、この3年間のIT関連投資額は相当な規模に上り、回収の見込みが立たない損失が出ているものと推測します。(実際にIT企業へ投資した金融機関のいくつかは破綻しているようですね)

一般の会社は仕方ないにしても、少なくともプロとして戦略提案を行うコンサルティングファームであれば、失礼ですがリスク管理が甘く、少し拙速な事業戦略だったように傍からは見えます。大企業の意思決定は全世界に影響を及ぼす可能性がある以上、庶民生活を混乱させない範囲での事業運営や投資を行ってほしいものです。

4.まとめ

今回のコラムはここまでにしたいと思います。

なぜコンサルティング業界でリストラが進んでいるのかについて考察してみました。

主な要因はマクロ環境によるものと、コンサルティング会社によるものとの二つがあります。ニュースでは前者のマクロ要因で論じられることが多いですが、実際には後者のコンサルティング会社自身が一因となっている場合もあるはずです。

注意事項といたしまして、従業員数などの参考データを除き、ここで述べている内容の多くは仮定および仮説に基づいています

IT関連の企業であっても、そしてそれら企業をサポートするコンサルティングファームであっても、全てがここに書かれているように売上や設備投資を増やしたわけではありませんし、需要が減少して大量リストラを行ったわけではありません。ピンチをチャンスに変え、うまく切り抜けている会社も沢山あると思います。

最後まで読んでいただきまして、誠にありがとうございました。

戦略コンサルタント
味水 隆廣