【講座】戦略コンサルティングサービスに関する市場分析の詳しい解説
皆さま、こんにちは
今回は、マイベストプロ様で掲載しているコラム『経営戦略コンサルティングサービスの市場規模とは?需給分析による試算と洞察』でも事前にお話していた通り、行った市場分析の内容を詳細に解説していきます。そのため、まだご覧いただいていない際は、そちらからお読みいただきますと全体の流れが分かりやすいと思います。構造化チャートで示しますと、以下の部分となります。
これは専門家向けの内容となります。「どのように計算したのか?」や「なぜこの値にしたのか?」という疑問にお答えする内容となっておりましたら幸いです。
1.初めに
1-1.推計のプロが詳しい根拠を示さない理由とは?
通常、ビジネスなどの試算や推計をするプロの方は、具体的にどのようにその数値を算出したかまでは詳しく説明いたしません。その理由は、大まかに分けて二つあるのかなと思います。
一つは、コンサルタントご自身が時間をかけて導き出した分析ノウハウを表に出したくない、という理由です。私もそのお気持ちは十分理解できます。ただ問題点として、コラムの方でも触れましたが、顧客の立場からしますと根拠となる情報が少なくなるため、コンサルタントが作成した提案内容にどこまでの説得力があるかの判断が難しくなります。そのため、意思決定に携わるプロジェクト責任者は困ることになります。このような過去の経験から、私の場合は他のお客様の守秘義務に抵触しない限り、求められれば出来るだけ情報を共有するようにしています。
そして、算出方法をクライアントに公開しない二つ目の一般的理由は、この分析はあくまで仮定に基づく推計となるため、人によって妥当と判断する基準が異なるからです。分析に使用したパラメータや仮定値、そしてその計算プロセス全てに同意される方はまずいらっしゃらないので、どこかで「おかしい」という突っ込みは入りやすくなります。根拠に曖昧さが生じるのは避けられません。
例えば逆に、それら曖昧さを無くすために計算を厳密に行っていきますと、複雑さが指数関数的に増していき、分析モデルとしての実用性は無くなります。クライアントへの丁寧で分かりやすい説明も仕事の内なので、プロは説得力のある分析を、シンプルさを保ちながら行わなければなりません。
将来予測や推計をするのであれば、数字の正確さをその時点では証明しようがありませんので、最初はロジックさえ適切に繋がっていれば良いと私は考えています。少なくとも、直感頼みのビジネスよりはリスクをはるかに低減できますし、将来の事業改善にも繋がるので、特に個人事業主や中小企業の場合は戦略策定および経営判断の材料として十分価値はあるはずです。
仮に、分析で導き出した数値と実データとの間にズレがあると分かれば、実際のデータを使用して該当部分の仮定値を修正すれば良いだけの話です。そのサイクルを繰り返す事で計算の精度は高まり、競合他社が容易に真似できない競争優位性となって事業に反映されていきます。これら一連の作業は、PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)の考え方に基づいています。
1-2.置かれている状況をプラスと捉え、ビジネスの可能性を拡げる
私のコンサルティングは基本的に『急がば回れ』です。人様のビジネスをサポートする以上、いい加減な分析や提案は出来ませんので、一見時間はかかっているように見えても、結果的には本質を突くスピーディな支援となっている事が多いようです。これも漸コンサルティング特有の付加価値と言えるでしょう。
大企業のように巨大なデータベースを活用しづらい環境にあるからこそ、個人コンサルタントとしてアナログなスキルが常に磨かれていると感じます。置かれている状況をプラスと捉えることで、ビジネスの可能性は拡がります。『足らぬ足らぬは工夫が足らぬ』ということわざをよく聞きますが、それはまさしく名言だと感じます。
1-3.AIと人間の間にはギャップが生まれやすい
詳しくはコラムの方で書きましたが、どんなにビッグデータやAIを駆使した所で、無限で未知数のアナログ世界を完全に予測や推計をすることは出来ません。それに、現在AIが出来ることは分析や提案をすることくらいで、現場での判断・実行は人間が行わなくてはなりません。
ここでのポイントは、AIが行う提案と人間の判断との間にはギャップが生まれやすいという事です。AIを活用する上では、この点が弱点になりうると考えています。
人間の場合ですと、自身(または信頼できるチーム)で分析・判断し、納得の上で実行に移す事が出来ます。これによって、一気通貫した仕事の流れを生み出せます。想像してみてください。機械に提案された内容を実行するのと、自身(や信頼する仲間)の分析を基に心から納得して実行するのと、どちらが全力を出せるでしょうか?私は後者です。これは、AIとは感情的なつながりがない、つまり信頼関係がないという情緒的な理由もありますけれど、それ以外にも人生やビジネスなど、フィールド(場)が無限に存在する世界では機械を信用しきれないという論理的な理由もあります。
1-4.私は求道者として、将来志ある人を育成したい
もう少し補足しますと、これが厳密にルールの定まっている車の自動運転や専門性の高いお仕事であれば、AIにある程度判断を任せても良いかなと思うかもしれませんが、私の場合はジェネラリスト(総合家または百姓とも言えます)として生き方や学問にフィールドが定まっていませんので、自分の人生の判断をAIに任せる気にはなれません。コンサルタント・戦略家・アナリスト・IT技術者・哲学者・武士など、自身をいろいろと定義できますが、どれも正解ではあっても完全には的を射ていないと思います。それらをあえて包括して言うならば、(職業とは呼べませんが)己の道を究める求道者となります。
追記:
会社員として働いていた30代の頃は、ジェネラリストという言葉は使わずに、自身の事をいつも百姓(百の名前を持つ者)と呼んでいました。いろんな分野を勉強したり、プロジェクトに挑戦していたからです。
なぜ私が求道者なのか少しだけ話しますと、歴史上の偉人である、西郷隆盛・高杉晋作・河井継之助などのような英雄・豪傑と、現代の世界でいつかお会いした時に、同じ土俵でお仕えしたいからです。戦略の参謀や分析官としてお供ができるよう、己の知識や精神を常に鍛えています。また、春日潜庵・横井小楠・佐藤一斎などのような優れた学者を、同じ学者として学問で超えたいという気持ちもあります。
仮にもし、この平和な時代でそのような人たちとお会いする機会がなくとも、せめて超人を定義したニーチェや立志の学問をまとめた一斎のように、自らが培ってきた力を、後世のために文章として残しておければと考えています。つまり私にとって求道者とは何者かと言いますと、『人と超人をつなぐ架け橋を担う存在』の事を指します。志ある人はぜひ、私を超え、そしてニーチェをも超えて、先に進んでほしいと願っています。ですので、ビジネス支援から始まる漸コンサルティングが将来的に目指しているのは、人材育成の支援(例えば能力開発など)となります。
1-5.守破離と総合力で勝負します
話を戻しますと、コラムでも書きましたが、人間のようにAIが守・破・離を体得し、分析からインプリメンテーション(実行支援)まで一気通貫してできるように進化すれば、つまり人間が介在する必要性が少なくなれば、話は変わってくるかもしれませんが、今の段階では努力次第で人間も十分に優位に立てます。少なくとも私は、人の持つ無限の可能性を信じています。
したがいまして、人の身である私は、AIが本来得意とする分析力だけで勝負することはいたしませんし、分析結果の妥当性(根拠)を厳密に突き詰めることも(時間がかかるので)いたしません。洞察に基づく経営判断や実行力も含めた、総合力で勝負します。
(もしAI関連で誤った内容を書いておりましたら、ご指摘いただけますと幸いです)
1-6.決まった解決方法はないので、創意工夫を心掛ける
最後に、この記事でご紹介しているのも、あくまで一つの方法です。戦略コンサルティングの市場分析に必要なツールを、自身の想像力(創造力)を駆使して導き出したに過ぎません。定まった答えが無い以上、感性と想像力によって問題を広くそして同時に深く認識し、創造力と洞察によって解決の方程式を創り出します。
それでは始めます。
2.前提条件の解説
詳しい解説に入る前に、本内容の前提条件についてご説明できればと思います。
2-1.需要ベースのトップダウン分析をメインに進めます
まず、今回の市場分析は「戦略コンサルティングサービスの需要は供給によって満たされている(供給≧需要)」という前提で話を進めます。分かりづらいので言い換えますと、例えば、クライアントがファームを訪れた際、すぐにご相談に応じていただける状況を想定して試算しているという事です。この需要サイドからの分析アプローチを、トップダウン分析と言います。一般的に人口から計算を始めます。
逆に、クライアントがファームを訪れても、すぐにご相談に応じられないほどキャパシティがオーバーしている(つまり顧客需要が非常に多い)場合は、供給サイドからの分析アプローチ、つまりボトムアップ分析を重点的に行う必要があります。
(Excelを使用した、トップダウンまたはボトムアップの実践的分析手法は、財務予測モデル製品として販売していますので、ご参考にしてください)
今回はトップダウン分析をメインとし、ボトムアップ分析は計算結果の妥当性をチェックするための簡易的なものに留めています。
2-2.初期仮説の検証は仕事の方向性を確認するために行います
ここでご紹介している仮説は、あくまで初期段階のもののため、分析の方向性を確認するために行っています。これが仕事でしたら、初期仮説が正しいと分かり次第、クライアントの課題解決に繋がるより具体的な仮説を構築して分析を進めます。
例えば、大手の戦略コンサルティングサービスに市場需要があると分かれば、後は具体的にどのような商品やサービスにより多くの需要が集中しているのか、どのように顧客へアプローチして市場需要を喚起していくのか、もしくは生産供給サイドにボトルネックがあれば、どのように解消するかなどを検討していくことになります。それに合わせ、仮説を新たに構築または修正していきます。
2-3.仮説検証時のニーズおよび需要有無の判断は、個人の裁量に委ねます
それと、仮説検証時に得られた数値から、ニーズや需要の有無をどのように判断するかについて、私の定義を書いておきます。
まず顧客ニーズについてですが、ニーズがあるかどうかの判断は、定量的に杓子定規で決めることはできませんので個人の裁量に委ねることになります。ただ、実際に分析をしてみると分かりますが、顧客ニーズは一般的に数字の桁が大きくなる傾向があるため、ニーズがあるという判断は下しやすいと思います。なぜ桁が大きくなるかと言いますと、そもそも、最初から顧客ニーズの無さそうな市場分析を行うアナリストは普通いないからです。ニーズがありそうな分野に仕事は集中するので、ある意味当然のお話となります。
後は市場需要についてですが、実際に需要があるかどうかの判断は、こちらもニーズ同様、個人の裁量に委ねます。ただし、需要の数値だけを見て有無を判断するのは難しいので、私はファーム従業員の給料や、個人コンサルタントの収入で判断する事にしました。
なぜ従業員の給料で判断するかと言いますと、市場需要があればファームの売上は多くなり、生活していくのに十分な給料として従業員にも分配されるはず、という前提のストーリーがあるためです。一方の個人コンサルタントの場合ですと、市場需要があればサービスの売上は多くなり、事業および生活を維持していく上で十分な収入となる、という前提があります。
需要の有無を量で見るか、それとも質で判断するかで、結果は大きく異なってきます。
例えば、8億円の売上がある戦略ファームで働いている従業員(コンサルタント)の給料が500万円である場合と、800万円の売上を出して500万円の利益がある個人の経営戦略コンサルタントの場合では、需要の有無を単純には比較できません。需要を量で見れば多いのは前者の戦略ファームとなりますが、質で見た場合はどちらも持続可能な収入を得ているので、優劣関係なく両方とも需要があるという判断になります。
私が出来る検証は今のところここまでです。もしより良い方法がございましたら、ぜひ教えてください。よろしければ、投稿者のお名前付きでご紹介したいと思います。
念のため、ここで仮説として検証するのは『人材不足の問題』、『顧客ニーズ』、そして『市場需要』の三つだけです。(試算はしますが)市場規模は含みません。需要パラメータについては、本来は直接的に数値で判断したいところですが、それが現実的に難しいという理由で、間接的に給料や収入を参考にしています。
補足1:
市場需要は顧客側の視点で、顧客が求めている商品量またはサービス数となります。一方の市場規模は、サービス提供側の視点で、市場全体の売上または販売量として表現します。市場需要と市場規模は大抵相関関係にある(供給量が十分にあればという前提)ので、需要が増えれば(供給できる範囲で)市場規模は拡大しますし、逆に減れば縮小します。
補足2:
多くの戦略コンサルティングファームは、たとえ大手であっても株式を一般に公開しておりません。そのため、ファームの財務状況は分からないケースがほとんどです。したがいまして、ここで設定している仮定のパラメータは、私の今までの知識や経験に基づいています。実態とは異なっている可能性がありますので、あくまで参考値としてください。
2-4.戦略コンサルティング市場のみ分析しています
あと注意点として、この記事でご紹介しているのは、戦略コンサルティングファームおよび戦略コンサルタントに関する市場のみです。会計系・総合系コンサルティングファームは考慮していません。戦略系と会計系・総合系では、求められる人材も提供するサービス内容も異なる部分が多いため、分けた方が良いという判断からです。
今回の市場分析試算では、大手戦略コンサルティングファームの日本での市場規模額は1,764億円となりました。
例えばこれがもし、大手の会計系・総合系コンサルティングファームの市場規模となりますと、戦略系ファームの数倍はあると言われているので、この試算をベースにすれば大体7,000億円~9,000億円くらいの市場規模額になります。よって、経営コンサルティングファーム全部を合わせた市場規模額となりますと、見積額は一兆円くらいになります。
2-5.助成金・補助金を考慮すれば、推定市場規模額はさらに増えます
それと、今回は助成金や補助金を考慮せずに試算しましたが、もし考慮に入れる場合は、市場規模額はこれよりもさらに増えるはずです。
その理由は、クライアントから見ますと、助成金によりプロの助言を得つつ経営負担を減らす事ができますので、サービスに対する需要が増え、結果的に戦略コンサルティング市場の売上が増加すると考えられるからです。ただし、参入するファーム・コンサルタントの数も増えますので、個々の事業者単位で売上や収入が増えるとは限らない事に留意してください。
目的と手段が逆になっているケースも見受けられます。したがいまして、漸コンサルティングでは公的補助の申請を積極的にお勧めする事はありません。交付されるかどうかに関わらず、「自分の事業をとにかくやる」、という強い決意を持ったお客様に全力を捧げたいと考えています。
前置きは十分かと思いますので、本題に入りたいと思います。
3.大手戦略コンサルティングファームの分析内容を解説
最初に、顧客が大手企業の場合の、大手戦略コンサルティングファームの市場分析について解説したいと思います。
顧客側の大手企業とは、従業員数が300人以上いる会社とし、依頼先は大手の主要戦略コンサルティングファームのみと仮定します。
3-1.大手戦略コンサルティングファームの年間市場需要および市場規模を試算
計算プロセスをエクセルで以下にまとめましたので、それに基づいて説明していきます。
まず、日本の人口を1億2,000万人と仮定し、そこから試算していきます。日本の人口の内、大人の割合を70%とします。そして大人の人口の内、10%を事業者の割合とし、その内5%を大手企業とします。人材不足の企業は大手企業の70%と仮定、その内経営戦略の技能を必要としている企業の割合は比較的高いと思われるので25%です。経営戦略の技能を必要としている企業の中で、コンサルティングサービスの活用を検討するのは80%とします。そして、実際に仕事をファームに依頼する企業の割合はその内の10%とします。1企業当たりの大手コンサルティングファームへの発注数は0.8注文/企業・年(つまり1.25年に1回発注)と仮定、1注文当たりの案件依頼数は1案件/注文、そして1案件当たりの平均価格は5,000万円とします。
ここで追記として、私は経営戦略の技能には、戦略策定に必要となる財務分析のスキルも含まれていると考えているのですが、一般的には必ずしもそうではない(詳細な財務分析を経営戦略コンサルタントが出来るとは考えていない)ので、あくまでお客様視点でイメージしている経営戦略のニーズを、パラメータとして設定しています。もし経営戦略の技能に財務分析も含んでいると分かっていただければ、顧客ニーズの割合はもっと増えると思います。
これらのパラメータを掛け合わせると、需要分析に基づく市場規模推定額は2,352億円となります。試算の過程で得られた重要な数値を、以下の表に抜き出します。
大手企業数 | 顧客ニーズ | 顧客需要 | 市場需要 | 推定市場規模 |
420,000企業 | 73,500企業 | 5,880企業 | 4,704案件 | 2,352億円 |
3-2.市場規模と一社当たり平均売上の妥当性・現実性のチェック
ここで疑問となるのが、この推定市場規模額が実際にはどうなのかという事です。大きいのか、小さいのか、それとも妥当なのかが分かりません。そのため、妥当性・現実性のチェックを行います。やり方が決まっているわけではないので、チェックの方法としてどのようなやり方が良いかを、その都度クリエイティブに考えていく必要があります。
この場合ですと、大手の主要戦略コンサルティングファームが日本に30社あると仮定します。30という数字の根拠は、単純に一般の人でも聞いた事があるような有名ファームが6社くらい(マッキンゼー・アンド・カンパニー、BCG、ベイン・アンド・カンパニー、ローランド・ベルガー、アーサー・D・リトル、A・T・カーニーなど)あるので、業界的には全体で30社くらいあるのかなと思っただけです。このような数字は定義によっていくらでも変わりますので、分からなければ直感で「えいや!」と決めてしまって構いません。一通り計算してみた後、数字に違和感を覚えた場合は、各パラメータをもう一度チェックすれば良いだけです。私の経験上、全体のパラメータが現実的な数値に収まっていれば、そこまで実態とかけ離れた結果にはならないと思います。
2,352億円を30ファームで割ると78.4億円/ファームとなります。つまり、大手戦略コンサルティングファーム一社当たりの年間需要ベース平均売上は、78.4億円となります。
次にこの78.4という数字が大きいのか、小さいのか、それとも妥当なのかという疑問が出てきます。ここで、昔読んだことのある知識を活用します。確か、マッキンゼーのグローバルでの年間推定売上は1兆円くらいなので、日本での売上を全体の6%と仮定します。そうすると600億円となります。トップクラスの企業でこれくらいの売上なので、主要30社の売上平均を取ると、78.4億円くらいであっても別に違和感はありません。
したがって、一社当たりの需要ベース平均売上78.4億円と市場規模推定額2,352億円は、今のところ妥当な数値と判断いたします。
3-3.需要と供給に基づく現実的平均売上および市場規模を試算
このセクションでは、より現実に近い(と思われる)コンサルティングファーム一社当たりの平均売上および市場規模を試算してみます。
そのためには、まず前段で算出した需要ベースの平均売上を利用して、供給ベースの平均売上を計算します。したがいまして、これは簡易的なボトムアップ分析となります。
なぜ両方の分析を行うかと言いますと、需要ベースの推定計算だけですと、その結果が実態と大きくかけ離れている場合があるからです。供給ベースの分析結果を一緒に考慮することで、双方の弱点を補うことができ、より現実に近い分析結果を導き出すことができます。つまり、トップダウン分析とボトムアップ分析を統合する事で、現実的なファーム一社当たりの平均売上、そして市場規模を推定する事が出来ます。
大手戦略ファーム一社当たりの需要ベース平均売上が78.40億円と分かったので、その売上に対する人件費の割合を45%と仮定すると、人件費は35.28億円となります。
ここで補足として、一般的に人件費の割合が高めに感じるかもしれませんが、コンサルティング業界では人材は最も貴重な資産なので、全体の費用からコンサルタントへ支払う給料や教育費の割合は自然と高くなる傾向があります。実際の数値は分かりませんけれど、以前ケビンさん(元マッキンゼーのパートナーで、FIRMSconsultingの現パートナー)がそのようにお話されていたのを聞いた覚えがあります。
そして、コンサルタント含む従業員一人当たりの平均年収を1,500万円と仮定すると、平均で一ファーム当たり約235人の従業員(コンサルタント)を雇っている事になります。有名大手6社の日本での従業員数は大体100人から800人くらいなので、大手戦略コンサルティングファーム30社全体の平均としては、これは若干多い気がいたします。
ファーム一社当たりの平均売上を達成するのに必要となる案件数は156.80案件、それとコンサルタント一人が請け負う案件数は0.67案件となります。一つの案件を常にチームで行っていると思いますので、コンサルタント一人が担う案件数が年間で1.00より少ないのは理解できます。専門性が高く、役割分担もはっきりしているためでしょう。
一つのチームで構成されるコンサルタントの数は8人と仮定します。したがって、一ファーム当たり平均29.40チームいることになります。
一チーム当たりのコンサルティング案件対応数は、3か月ごとに仕事を引き受けるという前提だと、年間で4案件まで対応できます。3か月間の内訳は、最短2か月間で仕事を完了させるスケジュールを立て、想定外を考慮して2週間のバッファー期間(余裕)を設けます。プロは不測の事態を想定してスケジュールを組まなくてはなりません。そして、仕事完了後に1週間の休みを取り、残りの1週間は次の仕事への準備期間とします。これは、かなりタイトなスケジュールと思いますが、高い年収を考えると普通なのかもしれません。
ちなみに、私の理想とするコンサルティングスケジュールは年間で3案件です。これくらいの余裕がありますと、例えば財務モデルを作成しての経営戦略コンサルティングなど、幅広いご相談にも柔軟に対応可能となります。もしこれ以上の頻度で仕事を引き受けますと、仕事またはプライベートのどこかに無理が生じてしまい、持続可能な仕事とは言えなくなります。企業の戦略コンサルタントがキャリアとして長続きしない理由の一つは、おそらく過密すぎるスケジューリングにも原因があると思われます。
先ほど、1チーム当たりのコンサルティング案件最大対応可能数を4と仮定しましたので、1ファーム当たり年間で平均117.60案件処理する事ができる計算になります。これがサービス供給視点での最大値となりますので、需要分析で得られた156.80案件はあくまで理想値である事が分かります。現実には達成困難という事です。
この117.60案件に1案件当たりの平均価格である5,000万円を掛け合わせますと、ファーム一社当たりの平均売上は58.88億円となります。そしてこの平均売上に大手の主要戦略コンサルティングファーム数30社を掛け合わせますと、供給分析から見積もる事の出来る市場規模額は1,764億円となります。
この事例ですと、需要に対して供給量が不足している(供給<需要)ので、最大の一社当たり平均売上および推定市場規模額はコンサルティングサービス供給分だけとなります。したがいまして、現実に近い試算結果は以下の通りとなります。
対応可能案件数 | 一社の平均売上 | 推定市場規模 | |
需要分析の試算 | 157案件 | 78.40億円 | 2,352億円 |
供給分析の試算 | 118案件 | 58.80億円 | 1,764億円 |
現実的な試算結果 | 118案件 | 58.80億円 | 1,764億円 |
これら数値の妥当性をチェックするため、さらにここからファーム一社当たりの従業員数も調べてみます。
平均売上58.80億円の45%が人件費の26.46億円となります。そして人件費を平均年収の1,500万円で割ると、一社当たりの平均従業員数は約176人となります。先に需要分析で算出した平均従業員数235人よりは、こちらの方がより現実的な数値であると判断いたします。
後、これは供給が需要を満たしていない事例(供給<需要)となりますので、売上増の改善策として、需要を満たせるだけの供給が増やせるかどうかを検討してみる価値はあります。(詳細はコラムの方で説明いたしました)
ただし、コンサルティングビジネスは労働集約型なので、例えば上の表の対応可能案件数を118案件から157案件に増やすためには、対策としてはおそらく現状従業員を増やすしかないと思います。
労働集約型とは?:
事業活動の大部分を、人間の労働力に頼る割合が多い産業のことを指します。
従業員を増やすという対策について、財務の観点から考えますと、コンサルティング業界の人件費は変動費としての特性が強く、人を単純に増やしても売上と共にコストも増えてしまい、利益率アップには中々繋がりません。また人材の視点では、戦略コンサルタントは高度な技能や経験を必要とする職業なので、プロのレベルになるには、最低でも5年から10年はかかると思います。個人の資質にも大きく影響されるので、研修教育よりも、先輩コンサルタントによるマンツーマンのコーチングが非常に重要となります。そのため、人手を増やそうと思って簡単に増やせるものではありません。そして市場の面では、年によって需要変動が大きく、必要以上にコンサルタントを増やすことは、「将来のビジネスリスクに繋がる」という経営判断が働く可能性があります。
コラムの方でも書きましたが、そう考えますと、この多少供給不足の状態は、リスク管理の点で見ますと、多くのファームにとって丁度良いのかもしれません。今後AIなどの導入で状況も変わっていくかもしれませんが、少なくとも現時点では、私の分析や洞察は真実に近いと思います。
3-4.仮説の検証と現時点での洞察
以上で試算は一通り終わりましたので、最後に初期仮説の検証を参考情報としてまとめたいと思います。
まず、クライアントが大手企業の場合の仮説は以下の通りでした。
仮説:
『多くの大手企業では特定の分野で必要なスキルを持った人材が不足しているので、経営戦略の専門知識・技能を提供する人材またはサービスには顧客ニーズがある。したがって、(大手企業を対象とした)大手の経営戦略コンサルティングサービスには市場需要がある』
検証するための重要パラメータを、下記表に抜き出します。
大手企業 | 人材不足な企業 | 顧客ニーズ | 顧客需要 | 市場需要 |
420,000企業 | 294,000企業 | 73,500企業 | 5,880企業 | 4,704案件 |
まず、大手420,000企業の内、294,000企業が必要なスキルを持った人材不足で悩まされています。つまり、大企業の70%が当てはまる事になるので、これは正しいと考えて良いと思います。
次に顧客ニーズについてですが、大手420,000企業の内、73,500企業が経営戦略のスキルを必要としているとの事でした。つまり、大手企業数から見ますと17.5%の割合で顧客ニーズがあるという事です。一方で、人材不足な企業294,000の内、73,500企業が経営戦略のスキルを必要としています。つまり、人材不足な企業数から見ますと、25.0%の割合で顧客ニーズがあるという事です。他にもいろいろな顧客ニーズがある中で、経営戦略のみでこれくらいの割合(4社に1社)があれば十分だと思います。よって、(この試算が正しければ)顧客ニーズは十分あると判断します。
次に顧客需要について考えてみます。大手420,000企業の内、5,880企業に顧客需要があります。つまり、大手企業数から見ますと1.4%の割合で顧客需要があるという事です。そして、経営戦略のスキルを必要としている企業73,500の内、顧客需要は5,880企業あるので、顧客ニーズのある企業数から見ますと8.0%が実際にコンサルティングサービスを求めている事になります。割合として見ると若干低い気もしますが、この数値だけではよく分かりません。
最後に市場需要です。大手420,000企業の内、4,704案件の市場需要があります。つまり、大手企業数から見ますと、1.12%の企業が年間で1案件発注している試算になります。これを言い換えますと、1企業当たりの大手戦略コンサルティングファームへの年間案件発注数は平均で0.0112案件となります。一つの企業が89年に1回仕事の案件を依頼するとも言えます。大手企業数からの分析では、市場需要があるかどうかはこれではよく分かりませんね。
そして、顧客需要のある企業数から見ますと、顧客需要5,880企業の内、4,704案件の仕事需要があるので、80%の企業が年間で1案件発注しているという試算になります。これは1企業当たりの大手戦略コンサルティングファームへの年間案件発注数は平均で0.8案件となり、つまり一つの企業が1.25年に1回仕事の案件を依頼するという事です。これくらいの依頼頻度であれば、顧客需要の観点からは市場需要は十分あると判断しても良いのではないでしょうか?
以上、市場需要にインパクトを与えていると思われるパラメータを一つ一つ検証しました。その結果を以下の表にまとめます。
大手企業 | 人材不足な企業 | 顧客ニーズ | 顧客需要 | 市場需要 |
420,000企業 | 294,000企業 | 73,500企業 | 5,880企業 | 4,704案件 |
70.0% | 17.5% | 1.4% | 1.12% | |
70.0% | 25.0% | 8.0% | 80.0% |
大手企業は人材不足 | 顧客ニーズがある | 顧客需要がある | 市場需要がある |
真 | 真 | ?? | 真? |
この表から何が分かるかと言いますと、大手企業は人材不足であり、経営戦略の専門知識を提供する人材・サービスには顧客ニーズがあるという事です。問題は、顧客ニーズがあった上で顧客需要があり、そして市場需要があるかどうかの判断となります。
ここで注意事項があります。初期仮説構築時に気付かなかった私が悪いのですが、何をもって「市場需要がある」とするかの定義を曖昧にしておりました。「市場需要」のパラメータは、それまでのパラメータを基に算出されている以上、市場需要があるかどうかの判断は、前のパラメータを含めて包括的に行う必要があります。しかしながら、上記の方法では片や1.12%とパーセンテージが低く、片や80.0%と高くて、有無の判断が出来ません。
したがいまして、上記の検証からは「大手企業が人材不足で顧客ニーズがあるからと言って、顧客需要や市場需要も十分あるかは分からない」という判断になります。
割合分析の結果からは結論を導けませんでしたので、視点を変えてみます。段落の2-3でも解説しましたが、市場需要があるという事は、(十分な供給がある限り)企業の売上、ひいては従業員の給料にも少なからず反映されているはずです。大手戦略ファームの従業員年収は平均で1,500万円という事から、ファームの規模(従業員数)に対して十分な売上を出していると考えられます。
それと、大手戦略ファームの市場は需要に対して供給が不足している(供給<需要)ので、供給量を増やせばさらに売上を増やす事も可能となりますが、すでに現状の供給量でも従業員の年収は十分高いところを見ますと、市場需要に基づく推定販売量4,704案件は、(企業の売上や従業員の給料に対して)十分な需要がマーケットに存在している事を意味しています。
以上を考慮しますと、大企業を顧客対象とする大手戦略コンサルティングサービスには十分な市場需要があると判断します。したがって、この初期仮説の需要記述部分は正しい(真)とします。
4.中小戦略コンサルティングファーム(大)の分析内容を解説
それでは次に、クライアントが大規模な中小企業の場合の、中小戦略コンサルティングファームの市場分析について説明したいと思います。
クライアント側の大規模な中小企業とは、従業員数が150人以上299人以下の会社とし、依頼先は中小戦略コンサルティングファーム(大)のみと仮定します。
ここからは、前段落の内容と重複していると思われる部分は省略して書いていきます。
4-1.中小戦略コンサルティングファーム(大)の年間市場需要および市場規模を試算
計算プロセスをエクセルでまとめましたので、それを基に説明します。
前段同様、日本の人口を1億2,000万人と仮定し、そこから試算していきます。日本の人口の内、大人の割合を70%とします。そして大人の人口の内、10%を事業者の割合とし、その内15%を大規模な中小企業とします。人材不足な企業は大規模中小企業の80%と高めに仮定、その内経営戦略の技能を必要としている企業の割合は大企業と比べ低めと考えられるので15%です。経営戦略の技能を必要としている企業の中で、コンサルティングサービスの活用を検討するのは低めの45%とします。そして、実際に仕事をファームに依頼する企業の割合はその内の10%とします。1企業当たりの中小戦略コンサルティングファーム(大)への発注数は0.5注文/企業・年(つまり2年に1回発注)と仮定、1注文当たりの案件依頼数は1案件/注文、そして1案件当たりの平均価格は1,500万円とします。
これらのパラメータを掛け合わせると、需要分析に基づく市場規模推定額は510億円となります。試算の過程で得られた重要な数値を、以下に抜き出します。
中小企業数(大) | 顧客ニーズ | 顧客需要 | 市場需要 | 推定市場規模 |
1,260,000企業 | 151,200企業 | 6,804企業 | 3,402案件 | 510億円 |
4-2.市場規模と一社当たり平均売上の妥当性・現実性のチェック
この需要ベース推定市場規模額の妥当性をチェックしてみます。
前段落の3で大手の主要戦略コンサルティングファームが日本に30社あると仮定しましたので、ここでは中小企業を顧客とする中小の戦略コンサルティングファームが全体で300社ある(30社の10倍)と仮定し、そしてその内、大規模な中小企業を顧客とする中小の戦略コンサルティングファーム(大)が100社あると仮定します。
510億円を100ファームで割ると、5.10億円/ファームとなります。つまり、大規模中小企業向けの、中小戦略コンサルティングファーム(大)一社当たりの年間需要ベース平均売上は、5.10億円となります。
ここで気になるのは、この一社当たりの平均売上が妥当かどうかです。もう少し試算してみます。売上の50%を人件費と仮定します。大手戦略ファームよりも人件費の割合が高い理由は、中小戦略ファームはブランド力が比較的弱いため、適正な人材を見つけて教育し、かつ長く働いてもらうための必要経費が、売上に対し多めにかかっていると考えられるからです。そのため、今回の分析では分かりませんけれど、おそらく営業利益もその分圧迫されていると思います。
つまり、一ファーム当たり平均2.55億円の人件費をかけており、従業員一人当たりの平均年収が800万円とすると、約32人の従業員が一つのファームに在籍している事になります。この従業員数が妥当かどうかは参考情報がないので全く分かりませんが、現実的な数値には収まっていると思います。
よって、一社当たりの需要ベース平均売上5.10億円と市場規模推定額510億円は、今のところ妥当な数値と判断いたします。
4-3.需要と供給に基づく現実的平均売上および市場規模を試算
ここからは、段落3-3と同様に供給分析(ボトムアップ分析)も組み合わせて、より現実に近いコンサルティングファーム一社当たりの平均売上および市場規模を試算してみます。
まず、前段4-2で算出した需要ベースの平均売上を利用して、供給ベースの平均売上を計算します。
ファーム一社当たりの需要ベース平均売上を達成するのに必要となる案件数は34.02案件、それとコンサルタント一人が請け負う案件数は1.07案件となります。やはり、人材が豊富な大手と比較して、(仕事の総量はさほど変わらないと思いますが)一人が担う仕事の案件数は多くなるようです。つまり、掛け持ちの仕事が増えている事を示唆しています。
一つのチームで構成されるコンサルタントの数は4人と仮定します。したがって、大規模な中小企業がクライアントの中小戦略ファームの場合、一社当たり平均7.97チームいることになります。
一チーム当たりのコンサルティング案件対応数は、3か月ごとに仕事を引き受けるという前提で、年間で4案件までとします。そうすると、ファームは年間で31.89案件処理する事ができるという計算になります。これがサービス供給視点での最大値となりますので、需要分析で得られた34.02案件という数値はあくまで理論値であり、実際には達成困難と考える事ができます。
この31.89案件に1案件当たりの平均価格である1,500万円を掛け合わせますと、ファーム一社当たりの平均売上は4.78億円となります。そしてこの平均売上に(大規模中小企業向け)中小戦略コンサルティングファーム数100社を掛け合わせますと、供給分析から見積もる事の出来る市場規模は478億円となります。
この事例では、需要に対して供給量が不足している(供給<需要)ので、最大の一社当たり平均売上および推定市場規模はコンサルティングサービス供給分だけです。したがいまして、現実に近い試算結果は以下の通りとなります。
対応可能案件数 | 一社の平均売上 | 推定市場規模 | |
需要分析の試算 | 34.02案件 | 5.10億円 | 510億円 |
供給分析の試算 | 31.89案件 | 4.78億円 | 478億円 |
現実的な試算結果 | 31.89案件 | 4.78億円 | 478億円 |
これら数値の妥当性をチェックするため、さらにここからファーム一社当たりの従業員数を調べてみます。
平均売上4.78億円の50%が人件費の2.39億円となります。そして人件費を平均年収800万円で割ると、一社当たりの平均従業員数は約30人となります。大規模な中小企業を対象とする中小の戦略コンサルティングファームは、差別化による独自性が強い分、大手よりも少数精鋭の傾向が強いと考えられますので、この試算結果は現実的で妥当と判断します。
後、先ほども説明しましたが、これは需要に対して供給が少ない事例(供給<需要)となりますので、全体の売上をもう少しだけ増やせる可能性があります。改善策として、需要を満たせるだけの供給が増やせるかどうかを検討してみると良いでしょう。(詳細はコラムの方で説明したと思うので省略します)
4-4.仮説の検証と現時点での洞察
以上で試算は一通り終わりましたので、最後に初期仮説の検証を参考情報としてまとめたいと思います。
クライアントが大規模な中小企業の場合の仮説は以下の通りでした。
仮説:
『多くの大規模な中小企業では広範な分野で必要なスキルを持った人材が不足しているので、経営戦略の専門知識・技能を提供する人材またはサービスには顧客ニーズがある。したがって、(大規模な中小企業を対象とした)中小の経営戦略コンサルティングサービスには市場需要がある』
検証するための重要パラメータを、下記表に抜き出します。
中小企業数(大) | 人材不足な企業 | 顧客ニーズ | 顧客需要 | 市場需要 |
1,260,000企業 | 1,008,000企業 | 151,200企業 | 6,804企業 | 3,402案件 |
まず、大規模な中小1,260,000企業の内、1,008,000企業が必要なスキルを持った人材不足で悩まされています。つまり、中小企業(大)の80%が当てはまる事になるので、これは正しいと考えて良いと思います。
次に顧客ニーズについてですが、大規模な中小1,260,000企業の内、151,200企業が経営戦略のスキルを必要としているとの事でした。つまり、中小企業数(大)から見ますと12.0%の割合で顧客ニーズがあるという事です。一方で、人材不足な企業1,008,000の内、151,200企業が経営戦略のスキルを必要としています。人材不足な企業数から見ますと15.0%の割合で顧客ニーズがあるという事です。段落3のクライアントが大手企業の場合と比べ、割合は低くなりますが、スキルを必要とする企業母数はそれでも多いので、顧客ニーズはあると判断します。
次に顧客需要について考えてみます。大規模な中小1,260,000企業の内、6,804企業に顧客需要があります。つまり、中小企業数(大)から見ますと0.54%の割合で顧客需要があるという事です。そして、経営戦略のスキルを必要としている企業151,200の内、顧客需要は6,804企業あるので、顧客ニーズのある企業数から見ますと4.5%が実際にコンサルティングサービスを求めている事になります。少し低いようにも感じますが、これら数値のみでの判断は難しいです。
最後に市場需要となります。大規模な中小1,260,000企業の内、3,402案件の市場需要があります。つまり、中小企業数(大)から見ますと、0.27%の企業が年間で1案件発注している試算になります。これを言い換えますと、1企業当たりの中小戦略コンサルティングファーム(大)への年間案件発注数は平均で0.0027案件となります。一つの企業が370年に1度仕事の案件を依頼するとも言えます。分析結果の値が極端なため、中小企業数(大)の観点からは市場需要があるかどうかの判断はできません。
そして、顧客需要のある企業数から見ますと、顧客需要6,804企業の内、3,402案件の仕事需要があるので、50%の企業が年間で1案件発注しているという試算になります。これは1企業当たりの中小戦略コンサルティングファーム(大)への年間案件発注数は平均で0.5案件となり、つまり一つの企業が2年に1回仕事の案件を依頼するという事です。これくらいの依頼頻度であれば、顧客需要の観点からは市場需要があると判断しても良いのではないでしょうか?
以上、市場需要にインパクトを与えていると思われるパラメータを一つ一つ検証しました。その結果を以下の表にまとめます。
中小企業数(大) | 人材不足な企業 | 顧客ニーズ | 顧客需要 | 市場需要 |
1,260,000企業 | 1,008,000企業 | 151,200企業 | 6,804企業 | 3,402案件 |
80.0% | 12.0% | 0.54% | 0.27% | |
80.0% | 15.0% | 4.5% | 50.0% |
中小企業(大)は人材不足 | 顧客ニーズがある | 顧客需要がある | 市場需要がある |
真 | 真 | ?? | 真? |
この表から何が分かるかと言いますと、大規模な中小企業は人材不足であり、経営戦略の専門知識を提供する人材・サービスには顧客ニーズがあるという事です。問題は、顧客ニーズがあった上で顧客需要があり、そして市場需要があるかどうかの判断となります。
段落3-4で説明しましたように、「需要がある」の定義が曖昧のため、上記の検証からは「大規模な中小企業が人材不足で顧客ニーズがあるからと言って、顧客需要や市場需要も十分あるかは分からない」という判断になります。
割合分析からははっきりとした結論を導き出せませんでしたので、同様に視点を変えてみます。市場需要があるという事は、(十分な供給がある限り)企業の売上、ひいては従業員の給料にも少なからず反映されていると考えます。中小戦略ファーム(大)の従業員年収は平均で800万円という事から、ファームの規模(従業員数)に対して十分な売上を出していると言えます。
それと、中小戦略ファーム(大)の市場は需要に対して供給が不足している(供給<需要)ので、供給量を増やせばさらに売り上げを増やす事も可能となりますが、すでに現状の供給量でも従業員の年収は高いところを見ますと、市場需要に基づく推定販売量3,402案件は、(企業の売上や従業員の給料に対して)十分な需要がマーケットに存在している事を意味しています。
以上を考慮しますと、大規模な中小企業を顧客対象とする中小戦略コンサルティングサービスには市場需要があると判断します。したがって、この初期仮説の需要記述部分は正しい(真)とします。
5.中小戦略コンサルティングファーム(中)の分析内容を解説
今度は、クライアントが中規模な中小企業の場合の、中小戦略コンサルティングファームの市場分析について解説します。
クライアント側の中規模な中小企業とは、従業員数が30人以上149人以下の会社とし、依頼先は中小戦略コンサルティングファーム(中)および個人の経営戦略コンサルタント(中)と仮定します。この段落では中小戦略コンサルティングファーム(中)のみ説明します。
注意点として、今までのようにコンサルティングファームだけではなく、ライバルの個人コンサルタントの存在もここでは考慮する必要があります。その理由として、この規模のお客様ですと、相談内容と料金によってファームと個人コンサルタントを使い分けている企業がほとんどと思われるからです。この点が今までの市場分析とは大きく異なります。
ちなみに、私が以前働いていた会社も、この中規模な中小企業(従業員数が50人ほど)に当てはまります。実際にサービスの依頼先を必要に応じて使い分けておりました。
5-1.中小戦略コンサルティングファーム(中)の需給に基づく平均売上と市場規模を試算
需給分析のプロセスは、以下の画像の通りとなります。
今まで同様、日本の人口を1億2,000万人と仮定します。日本の人口の内、大人の割合を70%とし、大人の人口の内、10%を事業者の割合とします。その内、20%を中規模な中小企業と仮定します。人材不足な企業は今まで以上の85%と高めに設定し、その内経営戦略の技能を必要としている企業の割合は15%とします。経営戦略の技能を必要としている企業の中で、コンサルティングサービスの活用を検討する割合は45%とします。そして、実際に仕事をファームに依頼する企業の割合はその内の10%とします。1企業当たりの中小コンサルティングファームへの発注数は0.25注文/企業・年(つまり4年に1回発注)と仮定、1注文当たりの案件依頼数は1案件/注文、そして1案件当たりの平均価格は800万円とします。
これらのパラメータを掛け合わせると、需要分析に基づく市場規模推定額は193億円となります。試算の過程で得られた重要な数値を、以下に抜き出します。
中小企業数(中) | 顧客ニーズ | 顧客需要 | 市場需要 | 推定市場規模 |
1,680,000企業 | 214,200企業 | 9,639企業 | 2,410案件 | 193億円 |
次に、需要ベースの推定市場規模額と中小ファーム一社当たり平均売上の妥当性・現実性のチェックを行います。
前段落の4では、中小企業を顧客とする中小の戦略コンサルティングファームが全体で300社あると仮定しましたので、ここでは中規模な中小企業向けにサービスを提供する、中小の戦略コンサルティングファームがその内200社あると仮定します。
193億円を200ファームで割ると、9,639万円/ファームとなります。つまり、中規模中小企業向けの、中小戦略コンサルティングファーム一社当たりの年間需要ベース平均売上は、9,639万円となります。
ここで、一社当たりの平均売上が随分少ないとお気づきになった方もいらっしゃると思います。その理由は、全体の市場需要を、次の段落で説明する経営戦略コンサルタント(中)と共有しているからです。市場を共有している分、中小戦略ファーム(中)の年間売上は少なくなります。つまり、この顧客セグメントではライバル同士の競争が激しく起きている可能性を示唆しています。
他のカテゴリーはサービス提供者の住み分けが出来ている分、この中規模な中小企業向けのビジネスがある意味一番競争が激しいかもしれません。その理由として、個人の経営戦略コンサルタント(中)にとっては、このカテゴリーが一番高い単価を見込めるからです。そのため、中小の戦略コンサルティングファームは、競争優位性を維持しつつ今の顧客セグメントに留まるか、または顧客対象を大規模な中小企業に移していくかの経営判断を迫られる可能性があります。ちなみに、顧客対象を小規模な中小企業に拡げるという選択肢もありますが、さらに競争が厳しくなると考えられるので、私でしたらお勧めはしません。
話を戻して、この一社当たりの需要ベース平均売上9,639万円が妥当かどうかを確認してみましょう。売上の50%が人件費なので、一ファーム当たり平均4,820万円の人件費をかけており、従業員一人当たりの平均年収が500万円とすると、約10人の従業員が一つのファームに在籍している計算になります。この従業員数は、私の経験からも現実的な数値に思います。したがいまして、一社当たりの需要ベース平均売上9,639万円と市場規模推定額193億円は、今のところ妥当な数値に収まっていると判断します。
次に、供給分析も組み合わせての、より現実に近いコンサルティングファーム一社当たりの平均売上および市場規模を試算してみます。
ファーム一社当たりの需要ベース平均売上を達成するのに必要となる案件数は12.05案件、それとコンサルタント一人が請け負う案件数は1.25案件となります。想像通り、コンサルティングファームは規模が小さくなるにつれ、従業員(コンサルタント)一人当たりが受け持つ仕事の割合は増える傾向にあるようです。現場では依頼内容に応じて、その都度臨機応変に対応していく事を求められるため、個々の役割分担を明確にしていない企業が多いのではと思われます。仕事を掛け持ちするメリットもあるでしょうが、その弊害として、人物評価の公平性および責任の所在が不明瞭になります。一部の優秀なコンサルタントに仕事が集中してしまうといった、人手不足の企業によく見られる問題が起きやすいと考えられます。
一つのチームで構成される従業員の数は、課題内容に応じて2人または3人と変動すると思いますので、2.5人と仮定します。よって、中規模な中小企業がクライアントの中小戦略ファームの場合、一社当たり平均3.86チームいることになります。
一チーム当たりのコンサルティング案件対応数は、3か月ごとに仕事を引き受けるという前提で、年間で4案件とします。そうすると、ファームは年間で15.42案件処理する事ができます。これがサービス供給視点での最大値となりますが、需要は12.05案件分しかありませんので、実際の売上は需要ベースで考える必要があります。
この12.05案件に1案件当たりの平均価格である800万円を掛け合わせますと、ファーム一社当たりの現実的平均売上は9,639万円となります。そしてこの平均売上に(中規模中小企業向け)中小戦略コンサルティングファーム数200社を掛け合わせますと、現実的市場規模推定額は193億円となります。
この事例ですと、供給量が需要分を満たしている(供給≧需要)ので、最大の一社当たり平均売上および推定市場規模はマーケットが求めている需要分だけとなります。したがいまして、現実に近い試算結果は以下の通りとなります。
対応可能案件数 | 一社の平均売上 | 推定市場規模 | |
需要分析の試算 | 12.05案件 | 0.96億円 | 193億円 |
供給分析の試算 | 15.42案件 | 1.23億円 | 247億円 |
現実的な試算結果 | 12.05案件 | 0.96億円 | 193億円 |
先ほど需要分析の試算結果は妥当と判断しましたので、その需要分析に準じるこの現実的な試算結果も妥当と判断します。
後、これは需要に対して供給が十分ある事例(供給≧需要)のため、本来はもっと仕事を受注できるキャパシティがあるのに、市場需要が限られているため、売上が伸び悩む状況が想定されます。売上増の対策としましては、提供サービスの見直しや、マーケティング戦略などで市場需要をさらに喚起できるかどうかをまず検討してみると良いでしょう。(詳細はコラムの方で説明していますので省略します)
5-2.仮説の検証
以上で試算は一通り終わりましたので、最後に初期仮説の検証に移りたいと思います。
クライアントが中規模な中小企業の場合の仮説は以下の通りでした。
仮説:
『多くの中規模な中小企業では広範な分野で必要なスキルを持った人材が不足しているので、経営戦略の専門知識・技能を提供する人材またはサービスには顧客ニーズがある。したがって、(中規模な中小企業を対象とした)中小の経営戦略コンサルティングサービスには市場需要がある』
検証するための重要パラメータを、下記表に抜き出します。
中小企業数(中) | 人材不足な企業 | 顧客ニーズ | 顧客需要 | 市場需要 |
1,680,000企業 | 1,428,000企業 | 214,200企業 | 9,639企業 | 2,410案件 |
まず、中規模な中小1,680,000企業の内、1,428,000企業が必要なスキルを持った人材不足に悩まされています。つまり、中規模な中小企業の85%が当てはまる事になるので、これは正しいと考えて良いと思います。
次に顧客ニーズについてですが、中規模な中小1,680,000企業の内、214,200企業が経営戦略のスキルを必要としているとの事でした。つまり、中小企業数(中)から見ますと12.8%の割合で顧客ニーズがあるという事です。一方で、人材不足な企業1,428,000の内、214,200企業が経営戦略のスキルを必要としています。人材不足な企業数から見ますと、15%の割合で顧客ニーズがあるという事です。クライアントが大手や大規模中小の場合と比べ、割合はほぼ同じまたは低くなりますが、スキルを必要とする企業母数は多いので、顧客ニーズはあると判断します。
次に顧客需要について考えてみます。中規模な中小1,680,000企業の内、9,639企業に顧客需要があります。つまり、中小企業数(中)から見ますと0.57%の割合で顧客需要があるという事です。そして、経営戦略のスキルを必要としている企業214,200の内、顧客需要は9,639企業あるので、顧客ニーズのある企業数から見ますと4.5%が実際にコンサルティングを求めている計算になります。少し低いようにも感じますが、これらの数値から有無を判断するのは困難です。
最後に市場需要です。中規模な中小1,680,000企業の内、2,410案件の市場需要があります。つまり、中小企業数(中)から見ますと0.14%の企業が年間で1案件発注している試算になります。これを言い換えますと、1企業当たりの中小戦略コンサルティングファーム(中)への年間案件発注数は平均で0.0014案件となります。一つの企業が697年に1回仕事の案件を依頼するとも言えます。この観点からでは、正直市場需要があるかどうかは全く分かりません。
そして、顧客需要のある企業数から見ますと、顧客需要9,639企業の内、2,410案件の仕事需要があるので、25%の企業が年間で1案件発注しているという試算になります。これは1企業当たりの中小戦略コンサルティングファーム(中)への年間案件発注数は平均で0.25案件となり、つまり一つの企業が4年に1回仕事の案件を依頼するという事です。この依頼頻度ですと、顧客需要の観点から市場需要の有無を判断するのは難しいかもしれません。
以上、市場需要にインパクトを与えていると思われるパラメータを一つ一つ検証しました。その結果を以下の表にまとめます。
中小企業数(中) | 人材不足な企業 | 顧客ニーズ | 顧客需要 | 市場需要 |
1,680,000企業 | 1,428,000企業 | 214,200企業 | 9,639企業 | 2,410案件 |
85.0% | 12.8% | 0.57% | 0.14% | |
85.0% | 15.0% | 4.5% | 25.0% |
中小企業(中)は人材不足 | 顧客ニーズがある | 顧客需要がある | 市場需要がある |
真 | 真 | ?? | ?? |
この表から何が分かるかと言いますと、中規模な中小企業は人材不足であり、経営戦略の専門知識を提供する人材・サービスには顧客ニーズがあるという事です。問題は、顧客ニーズがあった上で顧客需要があり、そして市場需要があるかどうかの判断となります。
前段落3の大手戦略コンサルティングファームで説明しましたように、「需要がある」の定義が曖昧のため、上記の検証からは「中規模な中小企業が人材不足で顧客ニーズがあるからと言って、顧客需要や市場需要も十分あるかは分からない」という判断になります。
それと備考として、顧客ニーズから需要へのコンバージョン率は4.5%と、何となく低いように感じますが、(仮にそうだとしても)これをネガティブに捉えるのではなく、改善への伸びしろがあるとポジティブに捉えて対策を考えた方が、良い結果に繋がりやすいと思います。
「大事なのは分析結果ではなく、その結果をどのように受け止めるかにあります」
漸コンサルティング
割合分析からははっきりとした結論を導き出せませんでしたので、前段同様に視点を変えてみます。仮に市場需要があるという事は、(十分な供給がある限り)企業の売上、ひいては従業員の給料にも少なからず反映されていると考えます。中小戦略ファーム(中)の従業員年収は平均で500万円という事から、ファームの規模(従業員数)に対して売上が若干不足気味と言えます。
それと、中小戦略ファーム(中)の市場は供給が需要を満たしている(供給≧需要)ので、市場需要を増やせばさらに売り上げを増やす事も可能となります。ただし、売上自体が若干不足気味な現状を考えますと、市場需要に基づく推定販売量2,410案件は、(企業の売上や従業員の給料に対して)マーケットの需要が足りていない事を意味しています。
以上を考慮しますと、中規模な中小企業を顧客対象とする中小戦略コンサルティングサービスには十分な市場需要がないと判断します。したがって、この初期仮説の需要記述部分は誤り(偽)となります。
5-3.現時点での洞察
もう少しだけ、中小戦略コンサルティングファーム(中)について洞察してみましょう。
もしこの顧客セグメントに留まって事業を継続するのであれば、需要を新たに喚起し、競争に打ち勝つための優位性を確立しなければなりません。そのためには、ニーズを満たせるようサービス内容を見直し、需要喚起のためのマーケティングプランを作成し、そしてその需要に対応できるだけの必要なスキルをコンサルタントが学び直す必要があります。
仮説:
『中小企業向けの経営戦略ノウハウには顧客ニーズがあると分かったので、今(従業員に)学び直しを行えば、ニーズを満たしたサービスを開発・供給できるようになる。そしてマーケティング活動を通してサービスを広報、つまり需要を喚起することにより、売上増を見込むことができる』
検証のために確認すべきパラメータは以下の通りとなります。このパラメータは定量データだけでなく、定性的なデータも含めます。
確認項目:
- 顧客ニーズがあるかどうか
- 学び直しが可能かどうか
- ニーズを満たしたサービスを開発・供給できるかどうか
- マーケティングでサービスの需要を喚起できるかどうか
- 新たに生じた需要に対し、適切な対応が取れるかどうか
- 最終的に売上増を見込めるかどうか
注意点として、仮説を構築する際は、売上やコストにインパクトのある、重要な論点に限るようにします。この事例ですと、市場需要を喚起しただけでは売上増に繋がるとは限りませんので、新たに生まれる需要に対し、適切な対応を自社(自分)で取れるように準備しておく事も大事です。
ただ、もし事情があってすぐにでも売上を増やしたいのであれば、学び直しよりも、必要なスキルを持った人材を新たに雇い入れるか、またはそのような人とパートナーを組んでビジネスを進めた方が良いかもしれません。
多くの企業で学び直しやリスキリングという言葉を聞きますが、分野によってはスキル習得に長い時間がかかります。特に売上増に繋げたいのであれば、知識を知っているだけでは何の意味もありませんので、プロとして使いこなせる技能にまで昇華させる必要があります。それを考えますと、多少費用がかかっても外部から高度人材を雇うのは、時間や費用対効果の面で十分検討に値する事業戦略となります。
最後に追記として、一部繰り返しとなりますが、中規模な中小企業を顧客対象とする中小戦略コンサルティングファームの場合、市場需要が少ない(つまりパイが少ない)ので、現状ライバル同士の競争は激しいものと推測します。需要が少ないマーケットで生き残るためには、差別化戦略を取ったり、少数での事業運営は避けられません。
私が思うに、ライバル同士でしのぎを削る前に、まずは業界の有志が集まってマーケティングやプロモーションを協力して行い、経営戦略のサービスを知らない顧客にもその付加価値をアピールし、潜在需要を喚起する事も重要です。大手とは異なる中小または個人特有の独創的サービスを、協力して大々的に打ち出せますと、消費者にも関心を持たれやすくなり、サービスの比較検討もしていただきやすくなるのではないでしょうか?プロとしての実力があれば、誰でも参加できる自由なプラットフォームを、参加者自身で創っていけたらいいなと思っています。
例えば、海外ではプロが財務モデルの作成スピードを競う、E-Sportsなるものがあります。コンペ時の動画は、YouTubeで検索すれば見つかると思います。このように、戦略コンサルタントもプロ同士で何人か集まり、プロモーションの一環としてお互いの戦略スキルを競い合うコンペティションを開いても面白いかもしれません。
加えて、いずれは各分野のエキスパートが集まり、大手戦略ファームにも引けを取らない仕事に一度挑戦してみたいと願っています。一人一人が全身全霊をかけた仕事を行い、一つの成果物となった時、何が出来上がるのかワクワクします。そのようなチャンスがあれば、アニメ『攻殻機動隊 S.A.C』に出てくる、荒巻課長のチームワークを個人的にはぜひ実践してみたいですね。私一人では達成し得ない何かを、成し遂げられるのではと感じています。
「我々の間には、チームプレーなどという都合のよい言い訳は存在せん。あるとすれば、スタンドプレーから生じるチームワークだけだ」
アニメ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』より
6.経営戦略コンサルタント(中)の分析内容を解説
次は、クライアントが中規模な中小企業の場合の、経営戦略コンサルタントの市場分析について解説します。
段落5の繰り返しとなりますが、クライアント側の中規模な中小企業とは、従業員数が30人以上149人以下の会社とし、依頼先は中小戦略コンサルティングファーム(中)および個人の経営戦略コンサルタント(中)と仮定します。この段落では個人の経営戦略コンサルタント(中)のみ説明します。
注意点として、今までのようにコンサルティングファームだけでなく、個人コンサルタントの存在もここでは考える必要があります。その理由として、この規模のお客様ですと、相談内容と料金によってファームと個人コンサルタントを使い分けている企業がほとんどと思われるからです。この点が今までの市場分析とは大きく異なります。
6-1.個人の経営戦略コンサルタント(中)の需給に基づく平均売上と市場規模を試算
需要分析のプロセスは、以下の画像の通りとなります。
今までと同様に、日本の人口を1億2,000万人と仮定します。日本の人口の内、大人の割合を70%とし、大人の人口の内、10%を事業者の割合とします。その内、20%を中規模な中小企業と仮定します。人材不足な企業の割合は高めの85%と設定、その内経営戦略の技能を必要としている企業の割合は15%とします。経営戦略の技能を必要としている企業の中で、コンサルティングサービスの活用を検討する割合は45%とします。そして、実際に仕事をコンサルタントに依頼する企業の割合はその内の10%とします。1企業当たりの個人コンサルタントへの発注数は0.22注文/企業・年(つまり4.5年に1回発注)と仮定、1注文当たりの案件依頼数は1案件/注文、そして1案件当たりの平均価格は400万円とします。
これらのパラメータを掛け合わせると、需要分析に基づく市場規模推定額は84.82億円となります。試算の過程で得られた重要な数値を、以下に抜き出します。
中小企業数(中) | 顧客ニーズ | 顧客需要 | 市場需要 | 推定市場規模 |
1,680,000企業 | 214,200企業 | 9,639企業 | 2,121案件 | 84.82億円 |
上の表をご覧いただきますと、中規模な中小企業数・顧客ニーズ・顧客需要までは、前段落5の中小戦略コンサルティングファーム(中)の試算値と同値と分かります。なぜかと言いますと、そこまでは対象となる顧客が中小ファームも個人コンサルタントも全く同じ(双方のサービスを状況に応じて使い分けているという前提)なため、試算の仮定値も共通で良いからです。しかしながら、それ以降の1企業当たりの年間発注数はそれぞれで異なるため、市場需要の値は異なってきます。さらに、1案件当たりの平均価格も異なるため、最終的に市場規模額は大きく異なる結果となりました。
次に、需要ベースの推定市場規模額と個人コンサルタント一人当たり平均売上の妥当性・現実性のチェックを行います。
前段落の3と4で、大手の主要コンサルティングファームが日本に30社あると仮定し、かつ中小戦略コンサルティングファームが日本に300社(30社の10倍)あると仮定しましたので、試しに個人の経営戦略コンサルタントが日本に全体で3,000人(300社の10倍)いるとここでは仮定してみます。論理的根拠は全くありませんが、何らかの数値を設定しないと話が進みません。ですので、ただの直感によるものです。
そして、中規模な中小企業向けにサービスを提供する、個人の経営戦略コンサルタントが1,200人(3,000人の内)いると仮定します。若干人数を低めに設定している理由は、高度なコンサルティングスキルを要求されると思うからです。原則一人で行うので、従業員数が30人以上149人以下の比較的大きな企業がクライアントの場合、コンサルティングを提供可能な個人の経営戦略コンサルタントは国内で限られると考えます。
84.82億円を1,200人で割ると、707万円/コンサルタントとなります。つまり、中規模中小企業向けの、個人の経営戦略コンサルタント一人当たりの年間需要ベース平均売上は707万円となります。年間で1.77案件のお仕事を引き受ける前提での売上です。経費を考慮すると若干少ない売上高と感じますが、おそらく市場需要を中小の戦略ファーム(中)と分け合っているからだと思います。数値的に妥当な範囲に収まっていると判断します。
次に、供給サイドから考えてみます。4か月ごとに仕事を引き受けるとしますと、年間で3案件まで対応できます。根拠となる期間の内訳は、最短2.5か月で仕事を完了させるスケジュールを組み、想定外を考慮して0.5か月間のバッファー期間を設けます。そして仕事が完了したら残りの1か月間を休暇・学習と次の仕事の準備期間とします。これで一つのサイクル(4か月間)となります。これくらいのスケジュール密度ですと、仕事の品質も維持出来て、かつプライベートとのバランスも取れるので理想的ですね。
そうすると、400万円の案件を年間3つまで引き受ける事が可能なので、最大の年間供給ベース平均売上は1,200万円となります。この数値はあくまで最大の平均値なので、中にはこれ以上稼ぐ人もいるはずです。
ただし、実際には経営戦略コンサルタント一人当たり、平均で1.77案件の市場需要しかありませんので、現実的な売上は需要サイドで考える必要があります。
したがって、経営戦略コンサルタント一人当たりの現実的平均売上は707万円となります。そして、この平均売上に(中規模中小企業向け)コンサルタント数1,200人を掛け合わせますと、現実的市場規模推定額は84.82億円となります。
この事例ですと、供給量が需要分を満たしている(供給≧需要)ので、最大の一社当たり平均売上および推定市場規模は市場が求めている需要分だけとなります。したがいまして、現実に近い試算結果は以下の通りとなります。
対応可能案件数 | 一社の平均売上 | 推定市場規模 | |
需要分析の試算 | 1.77案件 | 707万円 | 84.82億円 |
供給分析の試算 | 3.00案件 | 1,200万円 | 144億円 |
現実的な試算結果 | 1.77案件 | 707万円 | 84.82億円 |
先ほど需要分析の試算結果は妥当と判断しましたので、その需要分析に準じるこの現実的な試算結果も妥当と判断します。
それと、これは需要に対して供給が十分ある事例(供給≧需要)のため、本来はもっと仕事を引き受ける事ができるのに、市場需要が少ないため、売上が伸び悩む状況が想定されます。売上増のために、いかに市場需要を喚起するかが大きな課題となります。(詳細はコラムの方で説明していますので省略します)
6-2.仮説の検証と現時点での洞察
以上で試算は一通り終わりましたので、初期仮説の検証に移りたいと思います。
クライアントが中規模な中小企業の場合の仮説は以下の通りでした。
仮説:
『多くの中規模な中小企業では広範な分野で必要なスキルを持った人材が不足しているので、経営戦略の専門知識・技能を提供する人材またはサービスには顧客ニーズがある。したがって、(中規模な中小企業を対象とした)個人の経営戦略コンサルティングサービスには市場需要がある』
検証するための重要パラメータを、下記表に抜き出します。
中小企業数(中) | 人材不足な企業 | 顧客ニーズ | 顧客需要 | 市場需要 |
1,680,000企業 | 1,428,000企業 | 214,200企業 | 9,639企業 | 2,121案件 |
まず、中規模な中小1,680,000企業の内、1,428,000企業が必要なスキルを持った人材不足に悩まされています。つまり、中規模な中小企業の85%が当てはまる事になるので、これは正しいと考えます。
次に顧客ニーズについてですが、中規模な中小1,680,000企業の内、214,200企業が経営戦略のスキルを必要としているので、中小企業数(中)から見ますと12.8%の割合で顧客ニーズがあるという事です。一方、人材不足な企業1,428,000の内、214,200企業が経営戦略のスキルを必要としています。人材不足な企業数から見ますと、15%の割合で顧客ニーズがあるという事です。クライアントが大手や大規模中小の場合と比べまして、割合はほぼ同じまたは低くなりますが、スキルを必要とする企業母数は多いので、顧客ニーズはあると判断します。
次に顧客需要について考えてみます。中規模な中小1,680,000企業の内、9,639企業に顧客需要があります。つまり、中小企業数(中)から見ますと0.57%の割合で顧客需要があるという事です。そして、経営戦略のスキルを必要としている企業214,200の内、顧客需要は9,639企業あるので、顧客ニーズのある企業数から見ますと4.5%が実際にコンサルティングを求めている計算になります。少し低いようにも感じますが、これら数値からの判断は難しいように思います。
最後に市場需要です。中規模な中小1,680,000企業の内、2,121案件の市場需要があります。つまり、中小企業数(中)から見ますと0.13%の企業が年間で1案件発注している試算になります。これを言い換えますと、1企業当たりの経営戦略コンサルタント(中)への年間案件発注数は平均で0.0013案件となります。一つの企業が729年に1回仕事の案件を依頼するとも言えます。この観点からでは、正直市場需要があるかどうかは全く分かりません。
そして、顧客需要のある企業数から見ますと、顧客需要9,639企業の内、2,121案件の仕事需要があるので、22%の企業が年間で1案件発注しているという試算になります。これは1企業当たりの経営戦略コンサルタント(中)への年間案件発注数は平均で0.22案件となり、つまり一つの企業が4.54年に1回仕事の案件を依頼するという事です。この依頼頻度ですと、顧客需要の観点から市場需要の有無を判断するのは難しいかもしれません。
以上、市場需要にインパクトを与えていると思われるパラメータを一つ一つ検証しました。その結果を以下の表にまとめます。
中小企業数(中) | 人材不足な企業 | 顧客ニーズ | 顧客需要 | 市場需要 |
1,680,000企業 | 1,428,000企業 | 214,200企業 | 9,639企業 | 2,121案件 |
85.0% | 12.8% | 0.57% | 0.13% | |
85.0% | 15.0% | 4.5% | 22.0% |
中小企業(中)は人材不足 | 顧客ニーズがある | 顧客需要がある | 市場需要がある |
真 | 真 | ?? | ?? |
この表から何が分かるかと言いますと、中規模な中小企業は人材不足であり、経営戦略の専門知識を提供する人材・サービスには顧客ニーズがあるという事です。問題は、顧客ニーズがあった上で顧客需要があり、そして市場需要があるかどうかの判断となります。
今まで同様、「需要がある」の定義が曖昧のため、上記の検証からは「中規模な中小企業が人材不足で顧客ニーズがあるからと言って、顧客需要や市場需要も十分あるかは分からない」という判断になります。
割合分析からははっきりとした結論を導き出せませんでしたので、前段同様に視点を変えてみます。仮に市場需要があるという事は、コンサルタントの収入にも反映されていると考えます。個人の経営戦略コンサルタント(中)の売上は平均で707万円という事から、事業および生活を維持していく上で問題ないと言えます。
それと、経営戦略コンサルタント(中)の市場は供給が需要を満たしている(供給≧需要)ので、市場需要を増やせばさらに売上を増やす事も可能となりますが、すでに十分な年収を上げている現状を見ますと、市場需要に基づく推定販売量2,121案件は、(売上・収入に対して)必ずしもマーケットの需要が足りていないというわけではないようです。
以上を考慮しますと、中規模な中小企業を顧客対象とする個人の経営戦略コンサルティングサービスには市場需要があると判断します。よって、この初期仮説の需要記述部分は正しい(真)とします。
7.経営戦略コンサルタント(小)の分析内容を解説
最後に、クライアントが小規模な中小企業の場合の、経営戦略コンサルタントの市場分析についてです。
クライアント側の小規模な中小企業とは、従業員数が29人以下の会社とし、依頼先は個人の経営戦略コンサルタント(小)のみと仮定します。
7-1.個人の経営戦略コンサルタントの年間市場需要および市場規模を試算
計算は以下の通りとなります。
今までと同様に、日本の人口を1億2,000万人、その内大人の割合を70%とします。大人の人口の内、10%を事業者の割合とし、その内30%を小規模な中小企業とします。人材不足な企業は今までで最も高い90%と仮定、その内経営戦略の技能を必要としている企業の割合は今までで一番低くなる10%です。経営戦略の技能を必要としている企業の中で、コンサルティングサービスの活用を検討するのは40%と低い割合とします。そして、実際に仕事をコンサルタントに依頼する企業の割合はその内の10%です。1企業当たりの個人コンサルタントへの発注数は0.27注文/企業・年(つまり3.7年に1回発注)と仮定、1注文当たりの案件依頼数は1案件/注文、そして1案件当たりの平均価格は250万円とします。
これらのパラメータを掛け合わせると、需要ベースの市場規模推定額は61.24億円となります。試算の過程で得られた重要な数値を、以下に抜き出します。
中小企業数(小) | 顧客ニーズ | 顧客需要 | 市場需要 | 推定市場規模 |
2,520,000企業 | 226,800企業 | 9,072企業 | 2,449案件 | 61.24億円 |
7-2.市場規模と一人当たり平均売上の妥当性・現実性のチェック
この需要ベース推定市場規模額の妥当性をチェックしてみます。
前段落6で日本には個人の経営戦略コンサルタントが3,000人いると仮定し、その内、中規模な中小企業向けにサービスを提供するコンサルタントが1,200人いるとしました。よって、小規模な中小企業向けにサービスを提供するコンサルタントは残りの1,800人いる事になります。なぜこちらの人数が多いかと言いますと、一般的にクライアント企業の規模が小さいほどコンサルティングしやすいからです。
61.24億円を1,800人で割ると、340万円/コンサルタントとなります。つまり、小規模中小企業向けの、個人の経営戦略コンサルタント一人当たりの年間需要ベース平均売上は340万円となります。年間で1.36案件のお仕事を引き受ける前提での売上です。この数値が妥当かどうかは、正直私には分かりません。少なくとも、経費を考慮しますとこの売上高では生活すらままならない事は分かります。
FIRMSconsultingの現パートナー、マイケルさんも以前おっしゃっていたと思うのですが、たとえ元有名大手のコンサルタントとして独立・起業しても、やっていけるのはそう多くはないようです。
私の今までの経験と交えて直観で判断しますと、一人当たりの需要ベース平均売上340万円と市場規模推定額61.24億円は、おそらく妥当な数値ではないかと思います。
ちなみに、助成金支援サービスも考慮に入れますと、もっと売上高は増えるはずです。なぜ多くの個人コンサルタントが助成金や補助金事業も手掛けているのか、その理由が今回の市場分析から何となく分かりました。それは、普通のコンサルティングサービスだけを提供していては、(収入に対して)マーケットの需要が十分ではないからです。
7-3.需要と供給に基づく現実的平均売上および市場規模を試算
ここからは、供給分析(ボトムアップ分析)も組み合わせて、より現実に近い経営コンサルタント一人当たりの平均売上および市場規模を試算してみます。
まず、前段で算出した需要ベースの平均売上を利用して、供給ベースの平均売上を導き出します。
コンサルタント一人当たりの需要ベース平均売上を達成するのに必要となる案件数は、1.36案件となります。それと、一人でサービスを提供するので、コンサルタント一人が請け負う案件数も同じ1.36案件となります。
請け負う案件数が前段落6と比べ低いですが、これは、販売単価が0.625倍に増加したにも関わらず、収入の増加が0.48倍と少ないからです。販売単価の減少度合に比べ収入の減少度合がさらに大きいことから、請け負う案件数が減ったことが分かります。または、参加するコンサルタントの数が1.5倍と大幅に増えたにも関わらず、市場需要の増加が1.15倍と少ないからとも言えます。市場参加するコンサルタントの増加度合に比べ市場需要の増加度合が少ないために、請け負う案件数が減りました。
4か月ごとに仕事を引き受けると仮定しますと、年間で3案件まで対応できる事になります。最短2.5か月で仕事を完了させるスケジュールを組み、非常時に備え0.5か月間のバッファー期間を設け、仕事が終われば残りの1か月間を休暇・学習と次の仕事の準備に使います。前段落6のクライアントが中規模な中小企業のケースと同じです。
そうしますと、250万円の案件を年間3つまで引き受ける事が可能となりますので、最大の年間供給ベース平均売上は750万円となります。十分な市場需要があれば、理論上はこれくらいまで稼ぐことが可能という事です。
しかし、実際には経営戦略コンサルタント一人当たり、平均で1.36案件の市場需要しかありませんので、現実的な売上は需要サイドで考える必要があります。
よって、経営戦略コンサルタント一人当たりの現実的平均売上は340万円となります。そして、この平均売上に(小規模中小企業向け)コンサルタント数1,800人を掛け合わせますと、現実的市場規模推定額は61.24億円となります。
以下の表に試算結果をまとめます。
対応可能案件数 | 一社の平均売上 | 推定市場規模 | |
需要分析の試算 | 1.36案件 | 340万円 | 61.24億円 |
供給分析の試算 | 3.00案件 | 750万円 | 135億円 |
現実的な試算結果 | 1.36案件 | 340万円 | 61.24億円 |
先ほど需要分析の試算結果は(一応ですが)妥当と判断しましたので、その需要分析に準じるこの現実的な試算結果も妥当と判断します。
それと、これは需要に対して供給が十分ある事例(供給≧需要)のため、本来はもっと仕事を引き受ける事ができるのに、市場需要が少ないため、売上が伸び悩む状況が想定されます。売上増のために、いかに市場需要を喚起するかが大きな課題となります。(詳細はコラムの方で説明していますので省略します)
7-4.仮説の検証と現時点での洞察
以上で試算は一通り終わりましたので、初期仮説の検証に移りたいと思います。
クライアントが小規模な中小企業の場合の仮説は以下の通りでした。
仮説:
『多くの小規模な中小企業では広範な分野で必要なスキルを持った人材が不足しているので、経営戦略の専門知識・技能を提供する人材またはサービスには顧客ニーズがある。したがって、(小規模な中小企業を対象とした)個人の経営戦略コンサルティングサービスには市場需要がある』
検証するための重要パラメータを、下記表に抜き出します。
中小企業数(小) | 人材不足な企業 | 顧客ニーズ | 顧客需要 | 市場需要 |
2,520,000企業 | 2,268,000企業 | 226,800企業 | 9,072企業 | 2,449案件 |
まず、小規模な中小2,520,000企業の内、2,268,000企業が必要なスキルを持った人材不足に悩まされています。つまり、小規模な中小企業の90%が当てはまる事になるので、これは正しいと考えます。
次に顧客ニーズについてですが、小規模な中小2,520,000企業の内、226,800企業が経営戦略のスキルを必要としているので、中小企業(小)から見ますと9.0%の割合で顧客ニーズがあるという事です。一方、人材不足な企業2,268,000の内、226,800企業が経営戦略のスキルを必要としています。人材不足な企業数から見ますと、10%の割合で顧客ニーズがあるという事です。クライアントが中規模中小の場合と比べまして、割合は低くなりますが、スキルを必要とする企業母数は多いので、顧客ニーズはあると判断します。
次に顧客需要について考えてみます。小規模な中小2,520,000企業の内、9,072企業に顧客需要があります。つまり、中小企業(小)から見ますと0.36%の割合で顧客需要があるという事です。そして、経営戦略のスキルを必要としている企業226,800の内、顧客需要は9,072企業あるので、顧客ニーズのある企業数から見ますと4.0%が実際にコンサルティングを求めている計算になります。かなり低いようには感じますが、これら数値からの判断は困難に思います。
最後に市場需要です。小規模な中小2,520,000企業の内、2,449案件の市場需要があります。つまり、中小企業(小)から見ますと0.10%の企業が年間で1案件発注している試算になります。これを言い換えますと、1企業当たりの経営戦略コンサルタント(小)への年間案件発注数は平均で0.00097案件となります。一つの企業が1,029年に1回仕事の案件を依頼するとも言えます。この観点からでは、市場需要があるかどうかはよく分かりません。
そして、顧客需要のある企業数から見ますと、顧客需要9,072企業の内、2,449案件の仕事需要があるので、27%の企業が年間で1案件発注しているという試算になります。これは1企業当たりの経営戦略コンサルタント(小)への年間案件発注数は平均で0.27案件となり、つまり一つの企業が3.7年に1回仕事の案件を依頼するという事です。この依頼頻度ですと、顧客需要の観点から市場需要の有無を判断するのは難しいかもしれません。
以上、市場需要にインパクトを与えていると思われるパラメータを一つ一つ検証しました。その結果を以下の表にまとめます。
中小企業数(小) | 人材不足な企業 | 顧客ニーズ | 顧客需要 | 市場需要 |
2,520,000企業 | 2,268,000企業 | 226,800企業 | 9,072企業 | 2,449案件 |
90.0% | 9.0% | 0.36% | 0.10% | |
90.0% | 10.0% | 4.0% | 27.0% |
中小企業(小)は人材不足 | 顧客ニーズがある | 顧客需要がある | 市場需要がある |
真 | 真 | ?? | ?? |
この表から何が分かるかと言いますと、小規模な中小企業は人材不足であり、経営戦略の専門知識を提供する人材・サービスには顧客ニーズがあるという事です。問題は、顧客ニーズがあった上で顧客需要があり、そして市場需要があるかどうかの判断となります。
今までと同様に、「需要がある」の定義が曖昧のため、上記の検証からは「小規模な中小企業が人材不足で顧客ニーズがあるからと言って、顧客需要や市場需要も十分あるかは分からない」という判断になります。
割合分析からははっきりとした結論は導き出せませんでしたので、前段同様に視点を変えてみます。仮に市場需要があるという事は、コンサルタントの収入にも反映されていると考えます。個人の経営戦略コンサルタント(小)の売上は平均で340万円という事から、事業および生活を維持していく上でかなり厳しいと言えます。
それと、経営戦略コンサルタント(小)の市場は供給が需要を満たしている(供給≧需要)ので、市場需要を増やせばさらに売り上げを増やす事も可能となります。ただし、売上自体が不足気味な現状を考えますと、市場需要に基づく推定販売量2,449案件は、(売上・収入に対して)マーケットの需要が足りていない事を意味しています。
以上を考慮しますと、小規模な中小企業を顧客対象とする個人の経営戦略コンサルティングサービスには十分な市場需要がないと判断します。よって、この初期仮説の需要記述部分は誤り(偽)とします。
8.まとめ
以上となります。いかがでしたでしょうか?
今回の記事は、主に経営戦略または財務の専門家向けに需給による市場分析の考え方を詳しく書きました。したがいまして、一般の方からのニーズはあまりないとは思うのですが、戦略や財務に興味のある方にとっては大きく参考となる内容だったのではと思います。
仮説の検証については、出来るだけ詳しく解説するようにいたしました。桁数が大きくなりやすいニーズの検証は比較的簡単でしたが、問題は需要の有無についてで、どのように検証すべきかで少し悩みました。
私たちは普段何気なく、この商品には「ニーズがある」や「需要がある」などと言いますが、突き詰めて考えますと、何をもって有無を判断するかの定義は曖昧で、分析者の裁量に委ねられます。今回は需要の有無を従業員の給料やコンサルタントの収入で判断しましたが、これは洞察に導くための一つの解決案にすぎません。また、ニーズや需要を量で見るのか、それとも質で見るかの経営判断(ビジネスジャッジメント)も非常に重要となります。
普通、ここまで詳しく自分の手法を公開するプロフェッショナルはいないはずです。基本のビジネス理論は尊重しつつも、分析や洞察のやり方は、その多くを自ら試行錯誤しながら導き出しているので、内容についてはいろいろなご批評があると思います。
なぜ情報を共有するかと言いますと、中小や個人の持つビジネス知識は、もはや隠し持っている時代ではないからです。大手ファームのビジネスノウハウは、中小や個人のコンサルタントが考えている以上に進化している可能性があります。そのため、(今はまだ優位に立てていても)進化の遅い中小や個人の持つ独自スキルは、いずれ通用しなくなる時が来ます。
私はその時を黙って見ているつもりはありません。状況に合わせ、自ら進化していく道を選びます。そのためには、個人としての学問や現場での実践はもちろん大事となりますが、自分一人の知見・努力では成長に限界があります。新たな進化の可能性を探るために、私は情報を積極的に共有する事を決めました。価値観を共有する人々と出会い、切磋琢磨して共に成長していくための基本姿勢です。
それと、これはビジネスである以上、ライバル同士でしのぎを削るのも大変結構だと思います。しかし、もしマーケットの需要が少ないと感じておられる場合は、競争よりもまずは業界の有志が集まり、マーケティングやプロモーションを協力して行うのも一手だと考えています。
経営戦略が何なのかご存じない潜在のお客様も多いので、需要を喚起するための垣根を越えた活動は、業界全体の活性化にも繋がります。大手とは異なる中小または個人特有の独創的サービスを、協力して大々的に打ち出せますと、世間から関心や親しみを持たれ、サービスの検討もしていただきやすくなるのではと思います。
プロであれば誰でも参加できる、自由な戦略プラットフォームを当事者同士で創りたいです。そして、そのような繋がりを通して将来、大手戦略ファームにも引けを取らない仕事に取り組んでみたいと思います。各分野のプロが集まる事で、どんな可能性があり、何が生まれるのかを想像しますとワクワクします。
最後に、『ビジネス戦略コーチングサービスに関する市場分析の詳しい解説』については、本記事と重複する内容が多いので省略したいと思います。
本記事の内容が皆さまのお役に立っておりましたらうれしいです。
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。