【集中講座5】六次産業化による事業の垂直展開-畜産農家によるレストラン開業について考察

皆さま、こんにちは

第五回目の集中講座として、今回は畜産ビジネスと、それに基づく六次産業化について考察してみます。

1-【集中講座5】六次産業化による事業の垂直展開-トップ画像

前回と同様、Amazon Prime Videoで配信中の番組、『ジェレミー・クラークソン 農家になる』を一部参考にして話を進めます。

番組をご覧いただくと分かるように、イギリスはEUから独立を果たした事により、今後農業関連では補助金が出なくなりました。そのため、作物や野菜、そして牛やニワトリなどを育てて、従来のように業者に卸す一次産業だけでは、今後収益化が難しくなっていくと予想されています。大規模農家であっても、もはや例外ではないという事かもしれません。

2-ジェレミー・クラークソン農家になる&農業では補助金が出なくなる

よって、一次産業に従事している農家が十分な売上を確保するため、原料を加工する二次産業、そして商品を消費者に向けて販売する小売業およびレストランなどの飲食業などの三次産業に参入し、事業を垂直展開していく戦略を模索しています。これを一般的には、六次産業化または多角化経営とも呼びます。

3-農家は六次産業化または多角化経営を模索している

日本でも、東日本大震災が起きて以降、過疎化が進む地域を活性化させるため、国や県が補助金を出して積極的に推進してきました。それによって、いろんな地域で地元の農産物を加工して、ご当地商品として販売したり、それに基づくマスコットキャラクターが生まれたりしたのは、皆さんご存知の事と思います。

4-地元の農産物を加工してのご当地商品と、マスコットキャラクター

事業を垂直展開する目的は、サプライチェーンの効率化にあります。このケースでは、生産者である農家が、サプライチェーンの下流に向けて事業領域拡大を目指す形を取っています。その一方で、スーパーマーケットなどの小売業者の場合は、逆にサプライチェーンの上流に向けて事業領域を拡大する戦略を取っている所もあります。

5-事業を垂直展開する目的は、サプライチェーンの効率化にある

今回の集中講座では、牛を飼育して、その牛から取れる牛肉を使って、自社のレストランで肉料理を提供するビジネスについて考察します。

6-牛を飼育して、その牛から取れる牛肉を使って、自社のレストランで肉料理を提供するビジネス

自分は畜産業界について何も知らなかったので、いろいろ勉強になりました。

本内容について、もし何か気になる点がございましたらご指摘いただけますと助かります。

動画で見たい方は、下記のリンク先よりご覧ください。

YouTubeチャンネル:
【集中講座5】六次産業化による事業の垂直展開-畜産農家によるレストラン開業について考察

また、文章で読みたい方は以下に内容を書き出します。

それでははじめます。

1.背景の説明

本題に入る前に少しだけ、ジェレミーが挑戦した畜産業について述べておきます。

7-ジェレミー・クラークソンが挑戦した畜産業とは

番組のシーズン1で、彼は最初に80頭の羊を飼い、次には60羽のニワトリを飼い始め、そして大量のミツバチを使った養蜂や、人工池を作ってのマス養殖などにも挑戦しています。

そしてシーズン2に入ると、さらに20頭の牛の飼育を始めます。

それと、番組の中では取り扱っていないのですが、豚も2頭飼い始めたようです。

アマゾンから番組収入が見込め、ジェレミー自身複数の収入源があるからこそ、実行可能な事業展開と言え、普通の人にはまず真似できないやり方ですが、それゆえに面白い内容となっています。

ただし、結局はニワトリとミツバチくらいしか事業としては成功していないようなので、その原因がどこにあったかを考えてみますと、ビジネスやお仕事において何らかのプラスになるのでは?と思いました。

何が問題だったのか、そもそも成功の可能性はあったのか、または何が要因でうまくいったのか、収益性を含めいろいろ考察してみる価値はありそうです。

ただ今回につきましては、時間に限りもあるため、牛の飼育と牛肉料理を提供する飲食ビジネスについてだけ、考えてみたいと思います。

2.なぜ牛を飼育しようと思ったか

最初に、なぜジェレミーが牛を飼おうとしたかと言いますと、シーズン2の最初でご説明されています。

イギリスがEUから脱退したことにより、今まで農家に毎年出ていた補助金が近い将来無くなってしまうからです。

8-補助金申請書類

ジェレミーの場合、£82,000分の補助金収入が自動的に失われる事になるので、前回のシーズン1での利益が£144しか残らなかった事実からも、補助金なしでは一般的に農業はかなり厳しいビジネスという事が分かります。

9-シーズン1では営業利益(EBIT)がほとんど無かった

したがって、イギリスの多くの農家にとってEU脱退は大問題と言えるわけで、彼自身、何かしないといけないといろいろ考えた末での結論と思います。

昔からのやり方、つまり牛を飼育して業者に卸すビジネスでは収益を確保するのが難しい以上、牛や牛肉という商品に対し、自ら付加価値を付けて販売し、売上向上を目指す必要があります。その対策の一つとして、既存事業を垂直に展開する六次化や多角化経営のお話が出てきます。

ちなみに、日本はこの分野においては先進国と言えます。ニュースなどでご存知かと思いますが、多くの日本の農業従事者はすでに、自ら育てた作物・野菜・肉などを販売するための直売所をオープンしたり、レストランを経営したりしているからです。

六次化において先進国となった理由は、私が思うに、日本はイギリスを始めとした欧米諸国と違って、何百ヘクタールもの大規模農業・畜産業が出来なかったため、コモディティな商品では最初からグローバル競争に付いていけず、必然的に差別化またはブランド化して高い付加価値を付けて売らざるを得なかったからです。

この仮説が正しいとすれば、日本政府が現在推進している農業の大規模化政策は間違っている可能性があります。規模を追求しつつ、同時に差別化も維持しなくてはならないため、せっかくの優位性を弱めてしまう結果となりかねないからです。特に、事業のコアコンピテンス(圧倒的な強み)が個人のスキルや才能に由来している場合が当てはまります。

他の国がやっているからと言って、そもそもその考えが必ずしも正しいとは限りません。

食料の自給という意味でも、そして農業従事者に冗長性を持たせておく(つまり、エッセンシャルな人材を常に確保しておく)という意味でも、農業の効率的な小規模化・分散化を推進していく事の方が、非常時を想定した場合重要に思います。

11-農業の効率的な小規模分散化

農業の大規模化は、大豆などを使った代替肉や、コオロギなどを原料にした昆虫食を製造する工場だけで十分でしょう。

3.牛を飼育する際のメリットとデメリットまとめ

それでは次に、牛を購入する前に、飼育するメリットとデメリットについてまとめておきます。

3-1.牛を飼育するメリットとは?

まずはメリットからです。

ジェレミーの目的は、肉牛を自分たちで飼育する事によって、自社のレストランで地元の肉料理を提供する事です。これによって、育てた牛をただ業者に卸すよりも付加価値が生じるため、大きな売上増を期待できます。

13-売上増を期待できる

他にメリットとしては、牛糞は窒素成分が多く、その分化学肥料を節約できるという事なので、コスト削減も期待できます。

13-コスト削減も期待できる

また、農業用品店では土壌改良剤として牛糞堆肥を売っているくらいですから、土の肥沃化にも効果があるのでしょう。

13-土の肥沃化にも効果がある

後は、肉牛に加えて乳牛も飼えば、牛乳や乳製品を自社で生産・加工・販売出来るようになります。ただし、彼は牛乳や乳製品については、地元の酪農家から仕入れる計画のようです。

13-乳牛と肉牛では違う

全て自分でやろうとするよりも、近隣農家と助け合える形で事業運営をした方が、長い目で見ればメリットとなる可能性がありますので、私もその方が良いと思います。

とりあえず、ここまではいい事づくめですね。

3-2.牛を飼育するデメリットとは?

しかし、牛の飼育には当然デメリットもあります。

例えば、牛は結核などの病気にかかるリスクが高いです。もし伝染病にかかってしまうと、感染拡大を防ぐために牛が全て処分される事もあるため、農家にとっては多大な損失を被る可能性があります。

14-牛は結核などの病気にかかるリスクが高い

それを防ぐために、感染を媒介するアナグマなどの動物対策を行う必要があるのですが、自然保護の規制により駆除はできません。よって、現実的な対策が必要になります。アナグマと物理的コンタクトが無いよう取り計らうため、時間やコストは膨れがちです。

15-一定の距離を取る

また、対策だけではなく、定期検査を行って実際に牛の安全性を証明する必要もあります。

16-定期検査を行って安全性を証明する

近年猛威を振るっている鳥インフルエンザによって、多くのニワトリが殺処分されているのを見ると、一般的に畜産ビジネスは多額の初期投資が必要にも関わらず、同時にリスクも非常に高いと感じました。元々動物好きでないと、中々事業としては続かないかもしれません。

4.牛の購入

牛飼育におけるメリットとデメリットを確認した上で、次に事業資産となる牛を購入します。

17-子牛を含む牛を20頭購入

ジェレミーのケースでは、畜産農家を訪れて、子牛を含む牛を1頭£2,000、そして子牛をまだ産んでいない若い牝牛を1頭£1,450で、トータル20頭購入しました。この内の何頭が繁殖用の牛で、何頭が肉牛用途なのかは分かりませんが、牛全体で大体£30,000以上、日本円ですと約480万円かかった計算になります。

ちなみに、ジェレミーは酪農目的での牛購入は考えていません。先ほどもご説明した通り、近所の酪農家ですでに乳牛を飼育しており、ミルクを業者に卸しているので、自分のところであえてやる必要はないと判断したからでしょう。

もし近所に酪農家がおらず、そして地元産の食材を使ったレストラン経営を最初から考えていたとすれば、ジェレミーはミルクの自社生産も考えたかもしれませんね。

18-肉牛と乳牛の両方を飼えば、牛肉とミルクを自社で生産し、乳製品等を加工できるようになる

そうすれば、チーズ・ヨーグルト・アイスなどの加工品も製造・販売できるようになりますので、資金と顧客需要させあれば、検討する価値はあると思います。

5.牛を飼うためにかかるコスト

もちろん、牛の購入以外にも様々なコストが飼育のためにはかかります。

例えば、牛を育てるための牛舎建造費、繁殖のための代金、医療費、餌代、電気柵などです。

番組では、牛購入代も含めてかかった費用は、トータルで約£240,000との事でした。日本円に換算しますと、約3,800万円となります。畜産業を知らない私から見ますと、牛20頭を育てるための費用としては莫大な金額と感じます。

6.スーパーマーケットに卸した場合

さて、こうなってきますと、これだけの投資額を何年で回収できるのかは気になる所です。

そのためには、まず牛1頭でどれだけの売上が見込めるのかを知る必要があります。

まずは、スーパーマーケットに卸した場合です。牛をスーパーマーケットに販売した場合には、1頭当たり£1,200となります。日本円ですと約20万円です。

20-牛をスーパーマーケットに卸した場合の価格

ここで、お気づきになった方もいらっしゃると思うのですが、先ほどジェレミーは牛1頭を£1,450から£2,000で購入しました。つまり、畜産農家から購入した牛をそのまま売ってしまったら、大赤字になってしまう事になります。

21-仕入れた牛をそのままスーパーに売ったら赤字になる

ちなみに、単位が牛になっていますが、なぜ頭(とう)を使わないかと言いますと、牛だけでなく豚や羊も取り扱う可能性が高いからです。全て1頭、2頭、3頭と数えてしまうと、計算の際に混乱するので、あえて分けています。

それと参考情報として、スーパーに卸す際は、いくら価格が安いからと言って、農家側で販売価格を決める事は出来ません。なぜならば、価格交渉力においては、圧倒的にスーパーマーケットの方が農家よりも強いからです。

22-ファイブフォース分析-買い手の交渉力が大きい
ファイブフォース分析:買い手の交渉力が大きい

日本も状況は同じで、昔、仕事の研修でスーパーマーケットを訪れた際に、そのような説明を受けた事があります。

7.レストランで提供した場合

次に、自身で育てた牛の牛肉を、自分のレストランで直接メニューとして提供したらどうなのでしょうか?

その場合は、牛1頭当たり£10,000の売上が期待できます。スーパーマーケットに卸した場合の£1,200とは、全然金額が異なりますね。

23-レストランでメニューとして提供した場合の牛1頭分売上

ちなみに、なぜ牛1頭当たり£10,000の売上が期待できるかと言いますと、番組では1頭で950人分の牛肉が取れると説明しているので、おそらくですが、一人の顧客当たり£10、日本円だと約1,500円で食事を提供すると仮定して、約1,000人×£10で£10,000となるからだと思います。

24-牛1頭から1000人分の牛肉が取れるので、それに顧客単価10ポンドを掛ければ売上が出る

これが、ジェレミーがレストラン経営にこだわっている理由であり、そしてこの方法で無いと、コストが上昇し続けている現状においては、事業を収益化できる見込みが無いというご判断なのだと思います。

後、ここでは計算を簡易化するために、牛1頭で1000人分の牛肉が取れる、という前提で一貫して考えていますので、その点にご留意ください。

8.牛1頭でどれくらいの期間メニューを提供できるのか?

このように、レストランで牛肉料理を提供した方がはるかに儲かりそうだと分かりましたので、次に、牛1頭でどれくらいの期間メニューを提供できそうか見積もってみます。

まず、ジェレミーのレストランでは60席の椅子があると仮定しています。そして、一つの席で1日に二人が利用する、つまり2回転すると考えますと、60席×2回転で1日に120回転する計算となります。

25-ジェレミーのレストランの回転数

ここでは、1回転で顧客一人が利用するという意味なので、120回転とは1日で120人の顧客がレストランを利用するという意味になります。

26-1回転で顧客一人が利用する前提での1日あたりの人数

先ほどの通り、牛1頭当たり1,000人分の牛肉が取れるのですから、1,000人を120人で割ると、牛1頭で約8日間、牛肉料理を提供し続ける事が出来る計算となります。8日間というのは、かなり短いですね。

27-牛1頭で料理を提供できる日数

例えば、牛が20頭いれば、理論上は160日間料理を提供できるという意味になります。言い換えますと、今回購入した頭数では、半年も保たないという事です。

つまり、このレストラン事業は、ジェレミー・クラークソンの絶大な人気もあって、顧客需要は十分にありそうですが、牛肉を供給する観点から大きな課題がありそうです。

9.投資回収期間の推計(レストラン)

後は、レストランで牛肉を提供した場合の、投資回収期間について考えてみましょう。

最初の方で、投資額は£240,000かかり、そして牛1頭当たり£10,000の売上が見込めるとお話しました。そうしますと、この投資分を回収するためには、£240,000を£10,000で割る事によって、牛24頭分の牛肉をレストランで提供すれば良い事が分かります。

28-投資を回収するために必要となる牛の頭数

また、先ほどの計算から、牛1頭分の牛肉は8日間で消費される事が分かりました。そうなると、1か月間では約4頭分の牛肉が必要になってきます。

29-1か月間で必要となる牛の数

仮に、毎月4頭分の牛肉を提供した場合、£40,000のキャッシュが毎月入ってくる計算になるので、理論上たった6か月間で投資額£240,000を回収できる事になります。

30-理論上の最短投資回収期間

しかし、現実には繁殖用の牛も含めて20頭しかいないのに、毎月4頭の牛を料理として提供するのは無理があります。

そこで、全体のバランスを考えて、最初の2年間は毎月1頭分の牛肉をメニューとして提供すると仮定しますと、24か月間で投資を回収できる計算となります。

このスケジュールでも、まだ自然繁殖で無理なく供給できる牛肉量ではありませんので、足りない分の牛肉は、必要に応じて地元の畜産農家から仕入れる事になります。しかし、実際には肉牛の仕入先確保が困難だったり、仕入れ額が上昇したりした場合など、不測の事態も考えられるので、最短で2年、現実には3~4年以内で投資回収できる事業計画を私でしたら立てます。

31-現実的な投資回収期間を設定

10.投資回収期間の推計(スーパーマーケット)

次は、スーパーマーケットに牛肉を卸した場合の、投資回収期間についてです。

投資額は£240,000かかり、そして牛1頭当たり£1,200で卸す事になるとお話しました。そうしますと、この投資額を回収するためには、£240,000を£1,200で割る事によって、牛200頭をスーパーに卸さなければならない事が分かります。

32-投資額を回収するためにスーパーへ卸す必要のある頭数

その上で、番組の中でジェレミーが、「利益になるまでには30年かかる」という発言をされています。なぜ30年かかるのかの説明が無かったので、ちょっと考えてみたのですが、おそらくこのような計算からだと思います。

レストランでは、投資回収に必要な牛の数は24頭で、期間は3.5年と仮定します。一方、スーパーマーケットでは、投資回収に必要な牛の数は200頭となりますが、期間は分かりませんのでXとして比例式を作ります。

24:200=3.5:X
X=29.2年≒30年

このような計算をしますと、約30年となりました。彼の考えと合っているかどうかは別として、単純に必要な牛の数に8.3倍の差がありますから、期間も8.3倍で計算したのではないでしょうか?

33-スーパーへ卸した際の投資回収期間

11.牛の飼育とレストラン事業の感想

後は、ジェレミーの牛の飼育とレストラン事業について、私の感想を述べておきます。

レストランをオープンし、自分で育てた牛を使って肉料理を提供すれば、飼育した牛をただスーパーマーケットに卸すよりも収益性はかなり高いので、有望なビジネスモデルに思いました。

ただ、牛1頭で£10,000の売上が本当に見込めるのであれば、自前での牛の飼育や繁殖は極力考えずに、多少割高になっても、肉牛を直接畜産農家から仕入れた方が良いのではないでしょうか?そのまま牛肉に加工した方が、牛の維持管理費を節約できるので、トータルコストは抑えられる気がいたします。

例えば、仮に牛1頭を売上原価率30%の£3,000で畜産農家から仕入れる事が出来れば、普通に考えますと十分利益は出るはずだからです。

34-牛の飼育とレストランビジネスに対する私の感想

なぜ原価率30%で利益が出るかと言いますと、次回の集中講座で詳しく解説する予定ですが、試しに焼肉食べ放題レストランの収益シミュレーションを行ってみたからです。なので、多額の設備投資をしてまで、あえて自分で牛を飼育し、繁殖させる意味はあるのかどうか、正直疑問に思っています。

また、エコの観点から、土壌を肥沃化する目的で牛を飼うという考え方もアリなのかな?とは思いました。その場合は、ジェレミーのようにニワトリも一緒に飼うと面白いかもしれませんね。

でも、電気柵を毎回移動させなければならないので、作業の手間を考えますと、エコロジーの実験的取り組みとして宣伝したり、または観光農業の一環として来園者にお見せしたりするなど、小さく行うのが現実的に思います。純粋に収益性を考えるのであれば、やらない方が多分良いです。

12.ビジネス問題は早期発見・早期治療が鉄則

最後に参考情報として、最近の新聞で酪農家の85%が赤字経営というショッキングなニュースを目にしましたので、お話しておきたいと思います。

これはあくまで酪農に関するお話なので、肉牛を育てている畜産農家の経営状況とはまた違うのかもしれませんが、人口減や少子化という国内の社会的問題に加え、グローバル社会全体でも秩序が混沌としてきており、欧米経済も悪化しているという状況下においては、収益を上げ続けるのがより困難となっているのは間違いないようです。

どのビジネスにも言える事ですが、一度慢性的な赤字経営に陥ってしまうと、出来ることは限られてきます。

例えば経営戦略コンサルタントとして、売上を回復したり、伸ばしたりするための中・長期的な提案が出来なくなりますし、コスト削減など、大抵は実行に痛みを伴う短期的提案しか出来なくなります。

自分の能力を活用して、困っている事業者を支援したい、という気持ちで私はコンサルタントになったわけですが、ビジネスでは問題の早期発見・早期治療が鉄則となります。

35-ビジネスが赤字になりやすい要因とそうならないための対策

売上が落ちていると分かった時点で何らかの対応策を検討するのが、リスク管理の上では非常に重要です。コンサルタントの視点で見ても、代償がより少ない形での提案がしやすくなります。

中々人を信用するのが難しい世の中ではありますけれど、問題をご自身だけで抱え込まない事をお勧めいたします。

13.まとめ

以上、第五回目の集中講座はこれで終わりです。

今回の講座では、牛を飼育し、そしてその牛から取れる牛肉を使って、自社のレストランで肉料理を提供するビジネスについて考察いたしました。

長年続けてきたお仕事だけでは、生活が成り立たない農家が増えています。現状、牛を飼っている畜産農家が肉牛をスーパーマーケットに卸しても、ほとんど利益にはなりません。

ジェレミーの番組で、欧米諸国が直面している問題を少しだけ理解することが出来ました。

一方、日本の場合、元々大規模農業が出来なかったため、価格面で最初から競争が出来ず、早い段階から六次化による商品やサービスの差別化またはブランド化を進めてきました。この点において、日本は欧米と比べて六次化先進国といっても良いと思います。

中・長期的に見ますと、一般的に飲食業は8割が失敗すると言われています。しかし、今回ご覧いただいたように、十分な顧客需要があって、かつレストランで提供する牛肉を必要分確保出来ていれば、非常に魅力的なビジネスとなりえる事が分かったと思います。

加えてこのケースの場合、他の畜産農家から肉牛を30%の原価で仕入れることが出来そうなため、わざわざ多額の設備投資をしてまで、牛を自分たちで繁殖・飼育する必要性を自分は感じませんでした。

ただ、次回のシーズン3でお話があると思うのですが、ジェレミーは地方行政との認可トラブルがその後も続いたため、結局レストラン事業を諦める事にいたしました。非常にもったいないと思います。

後、最近約8割の酪農家が赤字であるというニュースが流れましたが、事業で赤字が膨らんできますと、解決策は狭まっていきます。ビジネスの問題は早期発見、そして早期治療が鉄則です。それが最高のリスク管理と言えます。

自分の事はよく見えなくとも、人の事は良く見えたりするのがコンサルタントなので、何か気になる事がありましたら、一度お問い合わせください。

最後までご覧いただき、誠にありがとうございました。
それではまたお会いしましょう。

戦略コンサルタント
味水 隆廣