AIの時代にもエクセルの基本的スキルは持っていた方が良い理由について考察

皆さま、こんにちは

先日は、YouTubeでエクセルを使っての財務予測モデル作成デモンストレーションを行いましたので、今回は、到来しつつあるAI時代になぜエクセルの基本的スキルを持っておいた方が良いのか、その理由について考えてみたいと思います。

関連リンク:
【集中講座9】エクセルを使っての財務モデル作成と分析テクニック【初級】

0-【集中講座9】財務分析のエクセルテクニックトップ画像

それと、まもなくマイクロソフトは自社のオフィス製品(ワード・エクセル・パワーポイントなど)にAI機能を搭載した、『Microsoft 365 Copilot』を提供する予定です。公式YouTubeチャンネルでは紹介動画がいくつかアップロードされているので、ご興味ある方はチェックされてみると良いでしょう。

参考リンク:
Microsoft 365 Copilot in Excel

0-エクセルのアイコンイメージ

どのような印象を持たれるかは人それぞれと思いますが、Copilot(副操縦士)という名前が付いている以上、あくまで人が行う仕事のサポート的な位置づけとなっています。業務の効率化を主目的としているようです。

0-コックピットの画像

ただし、将来的にはさらに機能が強化され、Pilot(機長)として重要な役割を果たしていくようになるでしょう。私たちはその過渡期にいると考えられます。

それではなぜ、これから到来するAI全盛時代に、個人のエクセルスキルを高めておいた方が良いのでしょうか?上記でご紹介されている公式動画のように、質問すれば情報を整理して答えてくれるのですから、AIを使いこなすためのスキルアップに時間と労力を割いた方が良い気もします。

0-AIを使って効率よく仕事をする人

そこら辺の疑問点を、今回はいくつかの視点から考えてみたいと思います。

注:
今回のコラムでは、エクセルの話題だけに留まらず、AI機能を搭載したサービス全体、そして人としてどうあるべきかまで話が拡がります。それだけの影響力がAIにはあるという事なので、あらかじめご承知の上で読んでいただけたらと思います。

1.自分で課題解決の糸口を掴む事ができる

まず一つ目は、基本的なエクセル機能を使いこなす事によって、自分で課題解決の糸口を掴むことができるようになるのが大きいと思います。大抵は市場・産業・自社の視点で分析を行うため、例えば、自社の業務状況を包括的に把握・改善し、取引先との交渉およびライバルとの競争を有利に運ぶ事も出来るようになります。相談内容によっては、経営コンサルタントは必要無くなるかもしれません。

2.キャリアアップで有利になる

そして、エクセルを習熟しておいた方が良い二つ目の理由は、自身のキャリアアップに有利となるからです。事業または部門の業績を数字でちゃんと把握していれば、経営者や上司の疑問に対してもすぐに対応できます。さらに、そのような人材を部下に持つという事は、直属の上司にとっても評価に繋がるので、右腕として頼られるようになる事もあるでしょう。

2-『STEPUP』矢印&階段イメージ

3.【事例】中国企業が躍進し、日本企業が衰退した理由

ここで、AI技術が将来私たちの生活にどのような影響を与えるのかを深堀するため、この段落では中国企業が日本企業に代わって世界市場を席捲した過去の事例をご紹介します。中国企業の躍進とAIサービス拡がりとの間には、何らかの類似性があると私は考えているからです。

追記:
本来は主題通り、エクセルのみに議論を限定すべきなのですが、それだと論じる内容も限られるので、ここからは『Microsoft 365 Copilot(エクセル含む』などのAI機能を搭載したサービス全般に話を拡げて考えてみようと思います。

3-1.2000年代に入り、日本に代わって世界市場を席捲しはじめた中国

現在30歳以上の方であれば、当時の状況をご存知の方も多いと思うのですが、1990年代半ばに起きたバブル崩壊により、それまで飛ぶ鳥を落とす勢いを見せていた日本経済は急速に影を潜めていきます。そんな落ち目の日本に取って代わったのが、2000年頃から『世界の工場』として台頭し始めた中国となります。

私は丁度その頃、オーストラリアで大学生をしていたので、日本の世界的影響力の減少と中国の躍進について、議論をした事もあります。当時20代だった私は、「日本にはまだお金と技術があるのだから、高度な技術を要する部品は日本で開発・製造し、そして人件費の安い中国でそれら部品を組み立てて商品を生産すれば、日本の競争優位は当分揺るがない」と思っていました。

しかし、その考えが誤りであった事は、衰退している日本の現状を見れば明らかです。何を間違えたのでしょうか?後のAI関連の話題にも繋がりそうなので、理由を考えてみます。

2000年代のお話ですから、スマホではなく、PC(パソコン)やテレビなどの製造を想定します。例えば、高機能なPCやテレビを製造し、市場で販売するためには、日本の高性能な半導体部品が当時必要だったと仮定しましょう。

そうしますと、下記のダイアグラムで言えば、それら部品を供給する日本企業はサプライヤー(上流)となり、一方商品を組み立てる中国企業は製造業者(中流または下流)となります。

3-サプライチェーンダイアグラム

ここに、中国企業が世界で躍進し、日本企業が衰退した理由の一つがあるのでは?と感じました。

3-2.組み立て工場としてノウハウを積み重ねてきた中国企業

まず、中国企業は自社で高性能な半導体部品を開発・製造する能力を当初持っていませんでした。しかし、組み立て工場として商品を大量製造している内に、ノウハウをどんどん積み上げていきます。

3-ノウハウを積み重ねる

もちろんそれだけではありません。自社が製造した商品を世界に向けて売らなければなりませんので、物流・販売ネットワークも構築していきます。

3-物流ネットワーク

全世界で販売された中国製品は、初めは不具合も多くて「安かろう悪かろう」の代名詞でした。しかし、そのような顧客からのマイナス評価を製造業者へ速やかにフィードバックする事で、中国企業は自社製品の品質改善を行っていきます。

その努力が実を結び、中国で作られた商品は「手頃な価格で十分な品質」というイメージが付いてきます。企業の売上も増えていき、そうやって設備投資・技術開発をするだけの金銭的余力も生まれていったのでしょう。

企業が中流・下流のお仕事に携わる事で得られるメリット:

  • 顧客のニーズや需要を知る事ができる
  • 効率的な販売ネットワークを構築できる
  • 生産(製造)ノウハウを積み重ねる事が出来る
  • 新たな設備投資・技術開発をするだけの金銭的余力が生まれる

3-3.高コストな企業体質を理由にグローバル戦略へと舵を切った日本企業

一方の日本企業はどうしたかと言いますと、開発から製造までを国内で一通り行ってしまうと、人件費などのコストが高くなり過ぎるという理由で、企画・開発は日本、そして製造は中国などの発展途上国に任せるという、持ちつ持たれつのグローバル戦略に切り替えます。OEM(Original Equipment Manufacturing)はその一例かもしれません。

その結果どうなったかと言いますと、日本企業は海外へ部品を卸したり、生産拠点を移したりすることで、利益を確保しつつ、高機能で手頃価格な商品を市場で販売する事が出来るようになります。

初めは、大幅な収益増など日本企業にとっても大きなメリットがありました。しかし、時間が経つごとに段々と、『産業の空洞化』というマイナス面も見えてきます。日本全国でシャッター通りが増え始めたのは、丁度この頃からでは無いでしょうか?

3-シャッター街のイラスト

また、高性能な電子部品を中国企業へ卸すだけの場合、当事者として最終消費者までのマーケティングに関われるわけではありません。現場情報が手に入らないので、消費者とのニーズギャップが少しずつ生まれていったのでは?と推測しています。

結果、ニーズに基づいた高性能な半導体製品の開発・製造ノウハウを積み重ねることができず、多くの日本メーカーは売上が伸び悩み始めていたので、中国企業のように設備投資や技術開発にお金をかける事ができなかったのだと思います。

例えば、「本当に必要なのか?」と思うほど沢山の機能または特殊な機能が付いた高価なテレビやパソコンが、2000年代当時日本メーカーから売り出されていなかったでしょうか?安い中国製品と差別化する意味もあったのでしょうが、今思うと消費者目線ではなく、開発者やメーカー都合で商品を出していた感じがします。

円高だった当時の状況を考えれば、機密性の高い電子部品に限って自国で開発・製造し、それ以外の機密性が低い部品や商品を製造する工場は海外へ移転、または中国企業へ生産委託するグローバル戦略が、必ずしも間違っていたとは思いません。ただ、技術立国の土台となる製造業を中国一国に集中させたのは、国家戦略の観点では間違いだったと思います。

企業が上流のお仕事のみに携わる事で生じるデメリット:

  • 最終顧客のニーズや需要を直接知る事ができない
  • 効率的な販売ネットワーク構築に関与できない
  • 生産(製造)ノウハウを積み重ねる事が出来ない
  • 新たな設備投資・技術開発をするだけの金銭的余力が生まれない

つまり、ここでの洞察は、日本の戦略は産業レベルで止まっており、厳密には国家レベルの戦略を持ち合わせていなかったと言えます。なぜそうなるかと言えば、国益では無く利権重視で政策が決まるからでしょう。後は、特に製造業の分野においての話となりますが、競争優位なビジネスを維持するためには、自ら高度な部品を開発・製造するだけではなく、組み立て・販売業務も一緒に手掛ける必要があるという事です。もちろん、そのためには莫大な経営リソースが必要となるのは言うまでもありません。一般的に大企業が中小企業よりも有利となるのはこの点にあります。

4.人の仕事がAIに置き換わる理由も、中国・日本の事例と似ているのでは?

前段落を参考にして、この段落では、AIを搭載したエクセルやパワーポイント等の『Microsoft 365 Copilot』を多くの人が活用した場合に、社会全体でどうなるかを想像してみます。

現状の技術や倫理では、AIが勝手にビジネスの意思決定をする事は出来ないので、マネジメント側(上流)の人間が具体的に仕事を指示する必要があります。そうやって指示を受けたAIは、エクセルでリサーチや分析などを行って、マネジメント(管理職)に報告したり、現場のお仕事をサポートしたりします。つまり、これから数年間は人間が上流および下流の仕事を担い、そして主にAIはマネジメントと現場を繋ぐサポート役(Copilot)として中流のお仕事を担うと考えられます。

今後数年間の人間とAIの関係:

  • 人が仕事を指示する(上流)
  • AIと人がマネジメントをサポートする(中流)
  • AIと人が現場仕事をサポートする(中流)
  • 人が現場仕事をする(下流)

これが、例えば10年~20年後などの未来にはどうなっているかと言えば、前段落の中国企業の事例を参考にしますと、AIはマネジメントや現場のお仕事を長年サポートし続けてきた事で、十分なデータ・ノウハウをすでに蓄積していると考えられます。

そうなると、管理職が行っているお仕事も、将来的にはAIで代替可能になると思われます。ただし、一部の現場お仕事については、おそらく10年~20年ではロボット技術がそこまで進化する事は考えづらいので、人の労働力はまだ必要とされているはずです。

前段落の中国企業の事例とは異なる点として、一つ留意事項があるとすれば、中流のサポート業務については基本的にAIの方が優秀だという事です。この場合、人間がお仕事を代替できる可能性は低くなります。したがって、下流のお仕事から中流のお仕事にステップアップする事は、現実的に困難と考えられます。加えて、自分の考えで企画・分析・提案したりする仕事需要も少なくなるので、多くの人は十分なスキルアップや業務経験を積めず、マネジメント(上流)のお仕事にも就きにくくなると思います。

4-サポートが無いと上に登れない
梯子が地面まで無いので上に登れず、スキルアップしてもAIという壁を中々乗り越えられない

つまり、ここで考えられる未来像とは、一度階層(上下関係)が定まってしまうと、それを個人の努力で覆すのは難しいのでは?という事です。

(AI関係なく、すでに米国では仕事の下積みが困難となっている業界も出てきているので、この社会的な流れは日本でも始まっていると考えた方が良いと思います)

未来の人間とAIの関係:

  • AIが仕事を指示する(上流)
  • AIがマネジメントをサポートする(中流)
  • AIが現場仕事をサポートする(中流)
  • 人(またはAI)が現場仕事をする(下流)

5.気付かぬ内にAIにコントロールされないため

このように考えていきますと、最終的に人間はビジネスにおいて全く必要とされなくなる可能性はあります。ですから、一部の研究者がAI技術には大きなリスクがあると警鐘したり、ベーシックインカム導入を主張したりするのは当然に思います。

人類全体として、そして各人として、「私たちはどうすべきか?」を早急に考え、決断していかなくてはなりません。

Microsoft 365 Copilot』に限ったお話ではありませんが、AIを搭載したエクセルやパワーポイント等のサービスを利用し、かつそれらを使いこなそうとする姿勢・向上心は別に問題ないと思います。ただし、その場合は気を付けて活用しないと、本人は使いこなしているつもりでも、気付いたら人間側が従属している事になります。似たような事が、過去に中国と日本の間でも起きたのは先述の通りです。

それを防ぐために、人は基本スキルの重要性を認識し、学び続ける事が大事です。エクセルに関しても、自ら手を動かして課題解決の方法を模索し続ける必要があります。

つまり、エクセルなどの基本的スキルを持っておいた方が良い最後の三つ目の理由とは、気付かぬ内にAIにコントロールされないためとなります。

6.人間のあり方・価値を問う

しかし、それだけではまだ不十分です。いくらスキルがあった所で、軸を持たない人間ほど脆いものは無いからです。

機械には無く、人間にはある特別な価値とは何なのか、各人で見出す事も重要となります。そうすれば、目先の損得や変化に振り回される事も、そして、ハリウッド映画に出てくるようなディストピア(反理想郷・暗黒世界という意味)な世界が到来する事を心配する必要も無くなるでしょう。

問題は人間側にあると思うので、私の個人的考えを述べれば、AIが進化するのであれば、一緒に人間も進化していく道を模索する方が、より明るい未来を描けると思います。

7.まとめ

今回は以上となります。

エクセルを使っての財務モデル作成動画をYouTubeへアップロードしたついでに、なぜAIの利用が拡がっている今、引き続きエクセルの基本的スキルを身に付けておいた方が良いのかについて考察してみました。

そうしたら、いつの間にかAI機能を搭載したサービス全般、そして国家戦略・人類全体にまでお話が拡がっていました。AIの進化は、皆の生活(生き方)にそれだけ大きな影響を与えるからでしょう。

個人的には、AI機能を搭載した『Microsoft 365 Copilot』には興味があります。しかし、自分の力で勝負したいという気持ちの方が強いので、当面は様子を見る事にします。

以前アップロードした動画の中でも自身の考えを述べていますが、私個人は、AI技術を自由に発展させていくべきというスタンスを取っています。なぜならば、たとえ欧米諸国が倫理的な規制を加えても、相容れない他の国々が勝手に開発を進めるからです。

昔、マツコ・デラックスさんが出ているテレビ番組の中で、AIロボット開発の第一人者が、ご自身のお考えを述べておられました。そこで明言されたわけではないのですけれど、私が見た所、その開発者の方が本当に望んでいるのは、「人間に匹敵するまたは人間を越えるアンドロイドを創り出すことでは?」と感じました。

物事を究めようとする研究者にとっては自然の欲求であり、その事自体は全然おかしいとは思いません。私自身、学問の求道者を自称していますから、研究者の方々のお気持ちは十分に理解できるつもりです。

先日アップロードした動画の最後の方で、世の流れを注視しつつも、あまり機械に頼らず「自分の力でまずは問題解決をしてみたい」という人々を出来るだけ応援したい、という事を述べました。なぜならば、人類がAI進化の足を引っ張るよりも、人間自身が頑張って進化していく可能性の方に賭けたいからです。

これが、現時点で私の出した答えとなります。

最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

戦略コンサルタント
味水 隆廣